役所広司(62)が荒ぶり、怒声を上げまくる。全身に入れ墨をした裸の男の首元へナイフを突きつけ、抗う相手を、「おう、(わしは)狂うちょる! 警察じゃけぇ、何をしてもええんじゃ!」と恫喝する──。
公開中の『孤狼の血』は警察小説×『仁義なき戦い』と評される柚月裕子の同名小説を原作に、警察ものや実録やくざ映画の本家・東映が制作。昭和の末期、暴対法成立以前の広島“呉原市”を舞台に警察vs暴力団組織の激しい攻防が描かれ、役所は型破りな叩き上げの刑事・大上章吾に扮して組織相手に大暴れする。
「僕も若い頃は、『仁義なき戦い』などの男っぽい映画を観て育ち、やくざやアウトローの世界から大人の男を学んだものです。
ここのところの映画界はテレビで放映する時の安全策として、台詞でも放送コードに引っかかりそうなら自主規制してしまう──いわば“シートベルトを着用する”傾向があるけれど、昔は荒々しい世界を恐れずに表現していた。『孤狼の血』は台詞でも過激なシーンでも、そんな昨今の縛りを度外視して作った作品です。
僕も最近の風潮に毒されているので、きわどい表現があると『シートベルトどうしましょうか』と聞くんですが、大上はそんな男じゃないでしょう、と。現場では白石(和彌)監督や東映さんの心意気を出演者みんなが感じて熱くなった。男たちの荒々しさは、往年のやくざ映画ファンなら懐かしく感じると思いますよ」
その熱を共有したのは役者たちだけではなかった。例えば、暴力団組織の構成員・吉田(音尾琢真)を締め上げるシーン。冒頭にある一場面だ。
「吉田は刑務所で股間に仕込んだ“ごっつい真珠”が自慢という人物。真っ裸の彼をつるし上げるシーンでは、その部分を特殊メークさんがものすごくリアルに手作りしたんです。撮影で自主規制をして画面に映らなかったとしても挑戦してみたいと言って、ずっと作っていた。その痕跡はしっかり映像に刻まれてインパクトのあるシーンになった。あまりの出来映えに現場はものすごく盛り上がりました(笑い)」