数台のカメラ、モニター、照明器具が並ぶ撮影スタジオに30人ほどの若い男女が続々と集まる。時計の針が午前9時を指すと、年輩の男性が出欠を取り始めた。ここはテレビ局ではない。大阪芸術大学短期大学部の校舎内にある「テレビスタジオ」。始まったのは、メディア・芸術学科の「映像演技」という授業だ。
『太陽にほえろ!』(1972年~、日本テレビ系)の島公之役から40年近くが過ぎても、あのマイルドな声は健在だ。かつて「殿下」の愛称で親しまれた小野寺昭は、11年前から「教授」として学生に演技を教えている。
「事務所から『教授のお仕事が来てます』と聞いたときは、ドラマの教授役だとばかり思いました(笑い)。その前年の夏休みに、大阪芸大とテレビ局が産学共同でドラマを制作する企画があって、僕も出演したんです。そこで学生たちにアドバイスしていたのが、理事長の耳に入ったようですね。講義ではなく実技指導の先生が必要だという話だったので、引き受けました」
この日は、6人の役者による3分程度の同じシーンを3グループがそれぞれ撮影。演技指導はもちろん、「パーンはもっと滑らかにやろう」「アップに切り替えるときは台詞が始まる前に」など、カメラマンやスイッチャーの学生にも細かい指示を出す。
アマチュア劇団を主宰していた公務員の父の影響で役者の道を志すも、俳優座養成所の試験に2年連続で失敗。人形劇団での下積み時代に独学でカット割りを学び、1969年のドラマ『パンとあこがれ』(TBS系)で正確な演技が評価され、飛躍の足がかりを得た。
「演技論の講義はできませんが、長年の現場経験から基本的なことは制作志望の学生にも教えられるんです。演技指導は、まず自由に表現させるのが僕のやり方。自分自身、かっちりと型にはめられるのは苦手ですから」