PSAとは前立腺で作られるたんぱく質で、前立腺がんでは大量に産生されるため数値が上がる。PSAを前立腺がんかどうか判断する腫瘍マーカーとして使う検査は少量の血液で可能という簡便さもあり、急速に普及が進んでいる。
ただPSA検査導入で前立腺がんの早期発見が進む一方で、弊害も指摘されている。数値が4~10ナノグラム/ミリリットル前後のグレーゾーンでは偽陽性が多く、がんではなく前立腺肥大のこともあり、逆に4ナノグラム/ミリリットル以下でも、がんのこともある。そこで前立腺がんの確定診断のため、前立腺に針を刺して組織を採取する針生検(はりせいけん)が行なわれるが、針を刺すことによる痛みや出血、感染症などリスクも大きい。
弘前大学大学院医学研究科泌尿器科学講座の大山力教授に話を聞いた。
「前立腺がんの診断におけるPSA値の精度は約50%と高くなく、過剰な検査や治療が問題になっていました。そこで1997年から、高い精度の腫瘍マーカー研究を始めたところ、がんではPSAの糖鎖の一部が、わずかに変化していることがわかったのです」
PSAなどのたんぱく質には、糖鎖が髭のように付いている。糖鎖は細胞同士がくっ付いたり離れたりする際に、最初に接触して情報伝達を行なう。前立腺がんと肥大症ではPSAそのものに大きな変化はないが、糖鎖の先端に付いた2種類の物質の付いている場所が違う。この微妙な構造の違いを判別することで、がんを特定できる。
糖鎖の構造変化の解析と同定には、特定の糖鎖にだけ親和性があるレクチンというたんぱく質を用いる。S2,3(シアル酸α2,3ガラクトース)と反応するものは前立腺肥大症では、ほとんど検出されなかったが、前立腺がんでは10~50%あった。また、S2,6(シアル酸α2,6ガラクトース)は前立腺がんでは、わずかしか検出されなかった。これにより、前立腺がんになるとS2,3PSAが高くなることがわかった。