大量の衣類が介護ベッドの上に散乱し、テレビにはぶ厚く埃がかぶっている。床には、ペットボトルや高齢者用の健康食品が無造作に置かれ、足の踏み場もない。だが、それより気になったのは、鼻を突き刺すような異臭だった。
「部屋に入った瞬間、これは紛れもない“死臭”だとピンときました。おそらく死後1週間は経っていたでしょう」
そう語るのは、関東全域で遺品整理業を営む「ドクターエコ」取締役の塩飽(しわく)貴哉さん。今年4月、塩飽さんは、茨城県在住の女性(60代)から、「2階の散らかった部屋を片付けてほしい」との依頼を受けた。いつものように掃除道具を携え、一室の扉を開けると、冒頭の光景が目に飛び込んできた。塩飽さんは恐る恐る尋ねた。
「どなたかここで、亡くなっていますよね?」
思わぬ言葉に一瞬体を震わせた依頼者だったが、ためらいながらこう答えた。
「実は、そうなんです。つい先日、気付いたら母がこの部屋で亡くなっていたんです」
母親は、この家で娘夫婦と同居していながら、誰にも気付かれず、ひっそりとひとりで亡くなったのだった。
総務省が4月13日公表した人口推計によると、65才以上の高齢者は3515万人と、総人口の27.7%を占め、その割合は過去最高を更新した。
超高齢化社会に突入し、国の医療・社会保障費は増え続け、日本はかつてないほど多くの課題に直面している。
そんな中、現代社会の新たな“闇”が顕現化している。それが、「同居孤独死」だ。東京都福祉保健局の2016年調査によれば、都内で家族と同居しているにもかかわらず、孤立状態で“異常死”した65才以上の高齢者は、2044人(男性1103人、女性941人)。1人暮らしの孤独死3121人(男性2018人、女性1103人)に迫る勢いである。
異常死とは、端的にいえば東京都監察医務院の検案対象となった死亡事案を指す。自殺や事故死なども分類されるが、孤独死が多くを占める。自宅で容体が急変して救急車で運ばれ死亡した事例は含まない。
これまで孤独死といえば、身寄りがなかったり、家族と離れて暮らす独居老人が人知れず亡くなるケースが取り沙汰されてきたが、昨今、家族と同居しながら、誰にも看取られずに1人で亡くなるケースが多発しているのだ。