歴代の首相には、ユニークな言語表現の持ち主が少なくない。「角栄節」といわれ、早口ながらわかりやすい語り口で庶民に政治を伝えた田中角栄氏、その盟友の大平正芳氏は国会答弁で「あー」「うー」と前置きして語ることから「アーウー宰相」の異名を取ったが、角栄氏は「アーとウーを省けば見事な文語文になっている」と評した。
対照的に、小泉純一郎氏は「自民党をぶっ壊す」など要点だけのワンフレーズポリティクスで世論を動かした。歴代首相を取材してきた政治ジャーナリストの野上忠興氏が語る。
「往年の総理大臣は、自分が不用意な発言をすれば政界や行政、経済にどれほど大きな影響を及ぼすかをわかっていた。だから言い回しには慎重で、思いきった発言をする場合も効果と影響を十二分に計算したうえで語った」
しかし、安倍晋三首相が自分の発言が及ぼす影響をどこまで考えているかは疑問だ。モリカケ問題では断言癖で国家のあり方までねじ曲げてしまった。
勢いに乗っている時の安倍首相は“俺は何でもできる”と歴代政権の憲法解釈を変更し、「最高の責任者は私だ」などと述べ、国民には実行困難な目標をたやすく実現してみせると約束する。そのとき多用するのが、「最高」「必ず」「一切」「全員」といった強調表現だ。
森友問題をめぐる有名な次の言葉には、自分の行為の正当性を強調する副詞が何重にも重ねられている。