早期発見・早期治療が命を救うイメージの強い“がん”だが、なかには例外もある。「根治しなくていいがん」の代表が、60歳以上が患者の9割を占める前立腺がんや、進行が遅いことで知られる甲状腺がんなどだ。
このような「命に関わることが少ないがん」に限らず、がん治療を行なうべきか精査する基準となる年齢は「75歳」だ。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏がいう。
「米国総合内科学会は、2013年に『がん検診は平均余命が10年未満の人には推奨できない』と勧告しました。その理由は『生存へのメリットよりも検査の誤りや検査後の治療から受けるデメリットのほうが大きいから』です。
日本人男性の寿命が約81歳であることを考えれば、75歳頃はすでにがんの治療を積極的に行なうべきか考えるタイミングに来ているといえます」
がんの3大療法は「手術」「放射線治療」「抗がん剤治療」だが、高齢者にはいずれもハードルが高い。特に抗がん剤治療では、昨年4月、国立がん研究センターが「75歳以上の進行がんには効果なし」と報告した。70歳以上のがん患者約1500人を対象に抗がん剤使用の有無による効果を比べたところ、75歳以上の生存率に差がみられなかったことが根拠だ。
抗がん剤の副作用は高齢になるほど強く出る傾向がある。医師で医療ジャーナリストの富家孝氏は、「手足のしびれや食欲低下による脱水症状で深刻な体調悪化を招きやすい」という。