三島由紀夫の長編小説『美徳のよろめき』がベストセラーになったのは今から約60年前のこと。「よろめき」は流行語にもなり、“妻であり、母であっても恋愛をすること”がセンセーショナルを巻き起こした。時代を超えた今、不倫は大きなニュースになり、「結婚しているのに、子供がいるのに」という声高な批判も聞こえるなか、恋愛漫画の名手・柴門ふみが世間に投げかけたのが、女性セブンで連載されている『恋する母たち』での「母が恋をしてはいけませんか?」という問いだった──。
3人のアラフォー女性が不倫について逡巡する様を描く『恋する母たち』の単行本1・2巻、2巻同時発売を記念して、作者である柴門ふみと、“恋愛小説の第一人者”である石田衣良とのスペシャル対談をお届けする。
石田衣良(以下、石田):つい先日の話ですが、朝ドラ(NHK連続テレビ小説『半分、青い。』)で“いつだって不倫は主婦の憧れ”といったナレーションが流れて炎上してましたね。あぁ、これが今の世の中だなと、改めて実感したな。40代以上の大人の女性の欲望は、いってみれば、世間で幽霊と同じような扱い。ほぼ“ない”ものとして、みんなごまかして生きている。
柴門ふみ(以下、柴門):結局、今までの時代では、男性の欲望は肯定するけれども、「女性というのは欲望がない性だ」みたいな決めつけをしてきてしまった。「男性は欲望を持っている性だから、セクハラをしてもしょうがないんだよ」みたいなことを男性自身が平然と語る、言い訳の文化がありますよね。
石田:でも、女性にも欲望はある。
柴門:そう。でも世間を騒がせている芸能界の不倫問題にしたって、男性はそんなに大きな痛手を負わないのに、高橋由美子さん(44才)でも、斉藤由貴さん(51才)でも、アラフォー以上の女性がいざ不倫をすると世間から袋叩きにされてしまいます。
石田:ある種の古い家庭観や道徳観みたいなものが、日本の社会に根強く残っているんですよね。