心温まる報せだった。コラムニストの石原壮一郎氏が、慶事と野球用語の使い方について考えた。
* * *
鮮やかで感動的な特大ホームランです。プロ野球界のレジェンドであり、ソフトバンクホークスの球団会長である王貞治さん(78)が、5月30日に18歳年下の一般女性と結婚しました。王会長は2001年に夫人を病気で亡くしていて、2度目の結婚になります。
日刊スポーツの記事によると「一緒に住んでちょうど10年目。10年も世話になったから、しっかりしたケジメをつけようと。ぼくは野球以外のことはぜんぜんダメなので、いろいろと支えてくれた。年齢、体のこともあるから2人で支えていこうと。男としての責任も生じるからね。お互いに体に気をつけながら支え合っていく」と語ってるとか。
とてもおめでたい話だし、王会長らしい誠実なコメントです。同世代の高齢者に勇気や希望や励ましを与えたことでしょう。もしかしたら「ケジメ婚」という言葉が流行るかもしれません。新聞やネットには王会長のホッとしたような笑顔があふれていますが、私たちも幸せのおすそ分けをいただいてしまいましょう。
何事も「野球用語」に例えるのが、おっさんの得意技であり伝統芸。ただ、例え方を間違えると、大ケガをしてしまいます。王会長の結婚の場合も、うっかり「まさに9回裏の逆転満塁ホームラン」なんて例えるのは極めて失礼。「超ファインプレー」や「ナイスバッティング」も、ちょっと違う気がします。いろいろ考えた結果、冒頭のような表現を使ってみました。無難で恐縮です。
おっさんが野球用語をやたら使いたくなるのは、言ってみれば現役時代の王会長らの活躍に胸躍らせた楽しい記憶があるから。王会長への祝福と感謝を込めて、身近な人が結婚したときにどんな野球用語に例えればいいかを考えてみましょう。
けっして若くはない、具体的には40代以上の男性の同僚が10歳以上離れた若い女性と結婚する場合は、たとえばスピーチなどで「まさに逆転満塁ホームラン」と言っても差し支えありません。ただし「起死回生の」を付けると、途端に失礼な響きになります。「出会い頭の一発」も、きっとそうなんでしょうけど使わないほうがいいでしょう。
逆に相手の女性が大きく年上の場合、男性に面と向かって祝福するなら「高めの絶好球を見事にクリーンヒットだね」がオススメ。似ているようですが「高めの甘い球を~」となると、ちょっとムッとされるかも。女性の側に「低めの球を見事にすくい上げたね」と言うのは不適切です。むしろ「エンタイトルツーベースって感じだね」ぐらいの謎な例えのほうが、どういう意味かはよくわからないまま喜んでもらえるでしょう。