映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、出演映画『のみとり侍』が公開中の女優・寺島しのぶが、役者としての評価を固めた主演映画『赤目四十八瀧心中未遂』と『ヴァイブレータ』について語った言葉をお届けする。
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寺島しのぶは二〇〇三年、映画『赤目四十八瀧心中未遂』と『ヴァイブレータ』に続けて主演、役者としての評価を高めていく。
「『赤目』はとにかく小説に感動したんです。それで作者の車谷長吉さんに直接『これを映画にするなら私しかありえません』って手紙を書きました。後に荒戸源次郎監督が映画化権を取った時に車谷さんがその手紙を持っていてくださって、それで結びついたようです。
荒戸監督は私がやりたがっていることを意外に思われたようですが、お話させていただくうちに熱が伝わったのか、荒戸さんの熱と一致したのか、出させていただけることになりました。物凄く過酷な撮影でしたが、やりたい気持ちが勝っていたので楽しかったですね。
私の演じた綾ちゃんは、運命に逆らえないところがあって、生まれた場所から頑張って逃げ出したいのに結局は逃げきれずに戻ってしまう。その切なさが自分に重なったのかもしれません。籠の中で育って、いつか飛び出したいと思いながら、飛び出せない。出ようともがいても、自分の生まれもった運命には逆らえない。その現実こそが人間であり、そこで生きていかなければならないのです。
『ヴァイブレータ』もそうなんですよね。一人で生きてきたけど、ある男と出会って、どこかに連れ出してくれるかもしれないと思うけど、やっぱり最後はまた一人で生きていく。
お嬢様育ちと言われたらそれまでなのですが、周りが『恵まれている』と思う部分と、でも『いや、中身はこんなんですよ』という部分が私にはあります。そういう自分と重なる内面を出すことに怖さは感じません。蜷川幸雄さんが『それを貫け』と言ったのは、そこを見抜いていたからなんだと思います」