ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との橋渡しの役割ばかりが最近、目立つ文在寅・韓国大統領。大統領選挙のときに掲げた十大政策ひとつめは、雇用革命により、雇用率を70%にあげ、非正規職を現在の半分にすることだった。韓国の若者の多くが彼を支持したのには、自分たちの苦しい境遇を終わらせる期待が大きかったと言われている。ところが、大統領就任後の文氏がもっとも夢中なのは、北朝鮮問題だ。ライターの森鷹久氏が、裏切られた韓国の若者たちの行き場のない思いをレポートする。
* * *
「日本は本当に仕事があるのか? 真剣に日本行きを検討している」
東京・文京区にある外資系企業で働くミニョンさん(27)の元に、地元である韓国・慶州市に住む友人からメールが届いた。友人といっても高校時代のクラスメイトで、ミニョンさんが大学進学をきっかけに来日して以降は年に一度会うか会わないかという関係。それでも、週に数度はメールのやり取りで、お互いの近況報告を行っている。
「これまでも、韓国国内の格差や若者の失業率について報じるニュースはたくさんありましたよね。若者と私の故郷に住むような田舎の人たちは、仕事もなく本当に苦しい。でも、大手企業や公務員は優遇されていて、結局は喫緊の問題として深刻に議論される事は少なかったのです」(ミニョンさん)
2017年の韓国大統領選挙では、親北朝鮮とされる革新派の文・現韓国大統領が選出され、韓国国内には「何かが変わる」という機運が漂った。ミニョンさんの友人も、週末にソウルで行われていた朴槿恵・前韓国大統領や当時政権だった保守派政党に対する反対デモに参加し、文大統領の誕生を心から願い、当選の際には涙を流して歓喜した。もちろん、文候補(当時)は、若者の失業対策にもしっかり取り組んでくれるだろう、という希望的な観測があったからだ。
「文大統領は北との会談など、歴史的なことをしっかりやってくれています。でも、若者の雇用状況は全く改善されるどころか悪化の一方。選挙の時はお祭り騒ぎでしたが、その後は北の問題でまた国じゅうがお祭りに。結局今も昔も経済についての具体的な話はなされないし、お祭り騒ぎに酔いしれているだけ。その繰り返しなんじゃないか」(ミニョンさん)
誰もが国の経済を、そして自分の生活を不安視していた。しかし、選挙や南北会談といった熱狂の中でそうしたネガティブなことを言い出せる状況ではなかったのかもしれない。たとえ重要な事実であっても熱狂する人たちの勢いを弱めるようなことは言ってはならない、そういった文化が母国にはあると話すミニョンさん。