幸せな老後を送るカギとなる「現在の存在感」をどう得ればいいのか。まず注意したいのは、「現役時代の肩書き」にこだわらないことだ。
A氏(55)は定年を迎えた元上司B氏(65)がかつての部下たちを誘うゴルフコンペや飲み会に月に2、3度誘われている。
「私を含めたBさんの元部下たちは、『本部長』と現役時代の肩書きのままで呼びます。それで昔のことが思い出されて心地よいのでしょう。たしかにBさんが現役の時はお世話になって恩義があるのでこれまで参加してきましたが、もうBさんが定年してから5年も経つ。同僚も、次第にひとり欠け、ふたり欠けとなり、私もいつ抜けようかタイミングを計っているところです」(A氏)
現役時代の肩書きが良いばかりにそれを定年後まで引きずってしまったのだろう。A氏はB氏を反面教師にしようとしている。
大手食品メーカーの部長を務めたC氏(68)も定年後、「肩書き」が足かせになってしまっている。
「現役中はどんな状況でも名刺さえ出せば、『あのコマーシャルの会社の部長さんですか』と驚かれたので、自らアピールする必要がありませんでした。言ってみれば『名刺依存症』だったのかもしれません。
ところが定年後に名刺を持たないようになり、会社の肩書きがなくなった途端、どのように自己紹介すればいいかわからなくなりました。おまけに家電店やゴルフショップなどの会員になろうとしても、入会書の勤務先欄を空欄にするのが耐えられなかった。『私は無職です』と誰かに告げることに未だに慣れません」(C氏)