【書評】『知性は死なない 平成の鬱をこえて』/與那覇潤・著/文藝春秋/1500円+税
【評者】大塚英志(まんが原作者)
鬱病からの回復の過程にある著者のリハビリテーションとして上梓された本書の、「評論」としての主旨の部分、つまり、能力の多様さを共存させ得る社会システムを設計する「共存主義」を現在の保守政治の対抗軸とする、という主張、あるいは、彼が「知性」と呼ぶ、考える能力の立て直しの訴えは理解できる。
だが最後まで違和が拭えないのは、鬱になったトリガーとして著者がいた大学での「知性」のあり方に失望したという文脈が、それが「発病」の「原因」ではない、と断り書きしつつ、やはり、拭い去れないからだ。
本書は「大学」という「知性」が溶解した場所で、鬱という形で「知性」を喪失した著者が「知性」そのものの復興を語るもので、著者の病と「知性」の機能不全はやはり比喩的な関係にある。だから「知性」の復興の訴えは、どこまでいっても「わたくしごと」、彼個人の回復の術として響いてしまう。