観ていくうちにハマった人も少ないないのではないか。コメディのようでいて背筋が寒くなる印象もある「新しい」不倫ドラマ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析する。
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いよいよラストに近づいた『あなたには帰る家がある』(TBS系金曜午後10時)。不倫がテーマの夫婦ドラマ、と聞けば目新しくないのですが、しかしこのドラマは従来のものとはどこか一味違う。独特のテイスト感が漂っているのです。
物語の主人公は……佐藤真弓(中谷美紀)と秀明(玉木宏)の平凡な夫婦。家事や雑事をめぐるちょっとした感じ方の違い、仕事復帰についての考え方の違い、一方通行の会話。些細な日常をめぐるいざこざと不満。一つ一つのセリフがリアルです。
それもそのはず、このドラマは活き活きとした夫婦像を描くため仕事と家事の両立、子育て、夫に対することなど事前に100人以上の女性の意見を調査して作ったとか。
日常のささいなことが大きな出来事につながっていくあたりは、しかしさすがドラマ。茄子田太郎(ユースケ・サンタマリア)と綾子(木村多江)の夫婦がクセモノ。モラハラ夫の茄子田に仕返しするかのように、秀明に迫る綾子。綾子の勢いに押され不倫関係に陥った秀明に、愛想をつかして離婚を決意する真弓。
離婚届けを出して別居したはいいけれど、しかし一人娘をめぐって完全には離れられない2人。なんやかんやと関わりは続き……秀明はまた綾子と焼けぼっくいに火?それとも元サヤに収まる? いよいよラスト目前、物語はいったいどこに着地するのでしょうか?
という2人の関係の「落としどころ」に対する関心を盛り上げるのは不倫ドラマの王道手法。従来ならドロドロ感が漂い、照明でいえばダークな陰影調で、湿度にすればじっとりしていて、音楽でいえば短調の不安なメロディが響くはず。例えば4年前、斎藤工と上戸彩の不倫話でヒットしたドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ系)は、上戸さんの不安げな表情が実に印象的で、どこか悲壮感が漂っていました。
しかし、このドラマは一味違う。ドロドロ感がほとんどない。乾いていてサバっとしている。コメディタッチの作りのせいかも。主役・真弓を演じている中谷美紀さんの、淡泊で引きずらないキャラクター性のせいもあるでしょう。
しかし、それだけでは説明がつきません。いったい何が、この不倫ドラマの独特の個性を形作っているのでしょうか?
キーワードはおそらく「外部化」。
「『結婚』って、女の人だけがこんなに大変なシステムなのか!」というフレーズがWebの感想の中にありましたが、まさしくその「たいへんな思い」を明快に「外部化」していくことで、新たな不倫ドラマが生まれた、とは言えないでしょうか?