スカーレット・オハラの破天荒な生き方や、レット・バトラーとの恋…私たちの心をときめかせ、人生を励ましてきた名作『風と共に去りぬ』が誕生して80年あまり。生きづらさを抱える現代の女性に、ふたたび彼女の強さやしたたかさを届けたい、と作家・林真理子さんが筆を執った。
原作をもとに新たな視点で描いた超釈小説『私はスカーレット』が文芸誌「きらら」6月号からスタートし、早くも話題になっている。そして、この度、宝塚歌劇団でスカーレット役を演じた龍真咲さんと対談が実現。2人の運命を変えた作品の魅力について語り合った
林:龍さんはそもそも月組男役のトップでしたよね。どんないきさつでスカーレットを演じることに?
龍:そうなんです。宝塚ではトップをしている男役が、急に女役を演じることは、本来あまりないことなんですね。ただ、この作品に関しては、私はどうしてもレット・バトラーよりもスカーレットを演じてみたくて。
『風と共に去りぬ』の映画版が好きな両親が、私の別の舞台を観に来たときに、「いつかあの子にスカーレットをやってほしい」と客席でぽそっと呟いたことがあったそうなんです。近くにいた人たちから「あの子は男役なんだから絶対できないよ」と言われたそうなのですが、その話を聞いて以来、何か目に見える形で親孝行したいという思いもあって。
林:じゃあご両親の願いを叶えたんですね。『風と共に去りぬ』って『ベルサイユのばら』と並んで、宝塚の二大代表作といっていい看板作ですものね。
龍:はい。いずれもファンのかたたちが育ててくれたといっても過言ではない作品だと思います。
林:男女間の愛、戦争や革命、女性の成長が描かれているという点がどちらも共通していますね。
◆愛のない結婚、精神的な不倫…現代的なしたたかさを持つヒロイン
龍:でも、いざスカーレット役を演じることになったら、すごくプレッシャーを感じてしまって。
林:見た目のイメージはスカーレットぴったりなのに。
龍:そう言っていただけるのはありがたいのですが、自分が演じるに値するのか、周囲の期待に応えられるかどうかという自信が最初のうちは持てなくて。スカーレットには、女という生き物の真髄が詰まっていると思うんです。欲しいものは何としても手に入れようとするし、失ったものもどうにかして取り戻そうとする。誰かを熱烈に愛しているようで、本当は自分しか見ていない…。
林:あてつけで愛のない結婚をしておいて、夫ではない初恋の男をずっと思い続けている。要するにずっと精神的な不倫を続けているわけですよね。すごく現代的ともいえるかも。
龍:愛のない結婚をして、相手に先立たれて、じゃあその先の人生をどうやって自分で作り上げていくのか。そういうことを常に先回りしながら考えているような女性。でもレット・バトラーを演じた共演者の轟悠さんが「あなたが猪突猛進で突っ込んでくるから、私も新しいレット・バトラーの解釈ができてすごく楽しい」とおっしゃってくださって。
林:猪突猛進。スカーレットは本当にそうですよね。