米朝首脳会談では、安倍晋三首相は自ら檜舞台に立てないまま“外交的敗北”を味わうことになりそうだ。それほど、トランプ大統領のあの言葉は首相に大きなダメージを与えた。「『最大限の圧力』という言葉はもう使いたくない」。金正恩氏の書簡を携えてきた“北のスパイの親玉”金英哲・朝鮮労働党副委員長との会談後、記者団に上機嫌でそう語ったときだ。
よりショックな内容はその前段の発言にあった。トランプ氏は金正恩氏の密使との2時間にわたる会談で非核化から経済制裁の解除、朝鮮戦争の終結まで「我々はほぼ全てのことについて話した」と語りながら、日本が強く望んでいる拉致など人権問題については「今日は話していない」と断言。そのうえで「北朝鮮への経済協力は韓国、中国、日本がすると思う。米国が多額の資金支援をすることはない」と踏み込んだ。
商売人のトランプ氏は「拉致被害者が全員帰国するまでビタ一文出せない」という方針をとってきた安倍首相に、聞こえよがしに“NO”のメッセージを送ったのだ。
首相は急いで米国に飛んでトランプ氏と会談したが、外交専門家の間では安倍外交の孤立がはっきりしたと受け止められている。武藤正敏・元駐韓大使が語る。
「安倍総理は拉致問題をなんとか米朝首脳会談の中に組み込んでもらおうとトランプ大統領に働きかけてきた。しかし、当事者双方の事情を見ると、それは叶いそうにないと考えられる。北朝鮮側は金正恩自身の命と国家の存亡を賭けた交渉で、一方のトランプ大統領は今秋に中間選挙を控えている。米朝ともに自分のことで精一杯で、日本の事情を考える余裕はない」