人生を励ましてきた名作『風と共に去りぬ』が誕生して80年あまり。現代の女性に、強くしなやかに生きてほしいと願いを込めて、作家・林真理子さんが筆を執った超釈小説『私はスカーレット』が文芸誌「きらら」6月号からスタートし、早くも話題になっている。そして、この度、宝塚歌劇団でスカーレット役を演じた龍真咲さんと対談が実現。2人の運命を変えた作品の魅力とは?
林:宝塚版の『風と共に去りぬ』では3パターンの演出があると聞いたことがありますが、それ以外にも特徴的な部分はあったりします?
龍:スカーレットの分身が現れる演出は、おそらく宝塚版ならではだと思います。
林:舞台上に2人のスカーレットが現れるということ?
龍:はい。スカーレットIは表向きのいい子を装っている彼女で、スカーレットIIは心の内の本音を語る役として後から現れます。彼女の最初の夫が亡くなった直後に出た舞踏会で、本来ならば寡婦は踊ってはいけないんですが、もちろんスカーレットはそんなことは気にせず踊りたい。
そのときに「本当は踊りたいくせに」と、もう1人のスカーレットIIが舞台に現れる、という演出なんです。
林:なるほど。スカーレットが分裂するんだ。面白いですね。私にとっては美しいトップスターがモスリンのドレスを着て登場するだけで、もうときめいちゃうけど、2人のスカーレットもぜひ観てみたい。
龍:宝塚の場合は、最後に分身であるスカーレットIIがいなくなるんですよ。最後の最後に彼女が絶望して、でも立ち直る瞬間に「あなたにもう私は必要ないわ」と消えてしまう。とても面白い役なので、スカーレットIIはスターが演じることが多いんです。林さんの『私はスカーレット』はスカーレットの視点から物語が展開していきますね。
林:世界的に知られている古典ですから、やっぱり今までの作品とは全く違う形にしたかったんですね。一人称にすることで、スカーレットの自己内省ができるんじゃないかなと思って。
ただ、一人称の小説って、スカーレットのようなキャラクターだと「このキャラにこんなに深い自己洞察できるわけないだろう」と読者に思われてしまうんですよ。そうならないための工夫が、これから連載を続けていく上での課題になるのかな。でもね、原作は今読み返してみてもやっぱり面白いんですよ。小説の元素みたいなものがいっぱい詰まっている。女心をくすぐる要素も満載。
龍:今の若い世代のかたが読んでも、絶対に面白く感じられる要素がたくさんありますよね。
林:そうそう。例えば、スカーレットがどんどんビジネスウーマンになっていくところとか。あの時代を舞台にした小説で「金儲けでもなんでもやったるぜ」みたいなヒロインって他にいないでしょう。
龍:あのたくましさはすごいです。