カメラマンがレンズを向けると、「こんな顔も撮っておきましょうか」と眼鏡をずらして変顔をする。この人は根っからのお笑い芸人なのだろう。ものまねタレントの代表格といえる存在であり、そのレパートリーは300を超えるといわれるコロッケ。そんな彼がお笑いを封印し、映画『ゆずりは』(6月16日公開)で本名である「滝川広志」としてシリアスな役に臨む。初の主演映画でもある。
「役柄がコロッケと真逆。本当によく指名いただいたなぁという感じです。僕のものまねは動きが激しいものが多く、返事ひとつとっても大袈裟にする。余計な動きに命を懸けるんです。それが身に沁みついてしまっているんですよ。だから監督にも最初は“動き過ぎ”と言われていました。余計な動きをしない、これが撮影中の僕の中での大きなテーマになっていました」
滝川が演じるのは葬儀社のベテラン営業部長。彼が勤める会社に面接にやってきた、茶髪にピアスの若者とともに、亡き人々や遺族との交流を通じて「生きる意味」を描いていくヒューマンドラマだ。誰もが避けて通ることができない「死」と向き合う現場が、この作品の舞台となっている。
「ものまねは存在する誰かの真似をする。お手本があって、それを崩して特徴を強調するのがコロッケです。ところが役者・滝川広志は存在しない人間を演じなければいけない。今回はお手本がないので崩しようがなく、強調する特徴がない。どえらいことでした。撮影が始まるとなんで引き受けちゃったんだと落ち込むこともありましたね」