映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、出演映画『万引き家族』『モリのいる場所』が公開中の女優・樹木希林が、老婆を演じること、是枝裕和監督との出会いについて語った言葉をお届けする。
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是枝裕和監督の映画『万引き家族』がカンヌ国際映画祭で最高賞にあたるパルム・ドールを受賞した。本作で樹木希林は「家族」の一員である老婆を演じた。一見すると人が良さげでありながら、心の奥底の見えない芝居で本領発揮している。
「人間というのはさ、いろんなものを含んで人間だから。通り一遍の『これです』という姿はないわけなのよね。だから、曖昧な中でいろんなものを見せていく。今回は特に、そういうことをできる環境が整っていましたからね。
人間が吹きだまりのように寄ってきて、『いいよ、いいよ、そこ使っていいよ。で、いくらくれるの?』とか言っているうちにああいう結末を迎えるような、そういう役はありえるなと思ってね。いつの場合でもありえる。私はそういう経験はしたことないけど、切羽詰まった時、あるいは孤独になった時に人はそういうふうになっていくんだろうな─というのは感じますね。
いま韓国では年寄りが食べていかれなくて売春やっているっていうのよ。そこまでやらなきゃいけない。それでも生きていかなきゃならない時、自分だったらどうするかと思います。他人事と思ってない。
日本でも、若い人が生活は成り立っているのに洋服を買うために平気で援助交際してるじゃない。凄く寂しい姿になってる。彼女たちが目指すものを先輩である私たちが示すことができないのを恥ずかしく思います」
日本のベテラン女優の多くは老婆役をやりたがらないが、樹木希林はそれを厭わない。