1席目、特に芸術選奨に触れることなく(白酒が度々「芸術選奨の内幕」を暴露して爆笑を誘ったのとは対照的だが、そこがまた扇遊らしい)、時代の移り変わりについてのマクラから医者の小咄を振って『崇徳院』へ。リズミカルにトントンと進んで噺へ引き込む扇遊の『崇徳院』の魅力は志ん朝に通じるものがある。
仲入り後は「教わった噺をただ素直に演っていた前座の頃が一番よかったかもしれない」と、前座時代に地方の仕事で演った『道具屋』がバカウケでトリの小三治を食ってしまったエピソードを披露して『井戸の茶碗』へ。まさに「素直に演じれば噺の面白さは自然と伝わる」という扇遊のポリシーを体現したような出来。とりたてて新鮮な演出はなくても語り口の魅力だけで古典落語は楽しく聴けることを証明した。
前座噺から人情噺の大ネタまで、肩の凝らない軽やかな芸風で楽しませる「程の良いオールラウンドプレイヤー」扇遊。今回の芸術選奨受賞をきっかけに、その魅力が全国で広く認知されることになるだろう。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年6月22日号