腰椎椎間板ヘルニアは5つある腰椎の椎間板に亀裂が入り、内部の軟組織が脱出して神経を圧迫することで痛みや足の痺れなどの症状が出る。治療当初は消炎鎮痛剤の投与や神経ブロック治療による保存療法が行なわれる。数か月程度経過しても症状の改善が見られない場合は、全身麻酔で脱出したヘルニア塊を摘出する手術が行なわれることが多い。しかし、合併症などで手術が難しい患者や手術を希望しない場合、他に選択できる治療がないのが問題だった。
そうした患者に対し、今年3月に日本で初めて椎間板の髄核に直接針を刺し、薬剤を注入して椎間板内圧を下げる治療薬が承認された。
2000年から治験を担当している、浜松医科大学整形外科の松山幸弘教授に聞いた。
「椎間板髄核の軟組織であるグリコサミノグリカンはコラーゲンやヒアルロン酸、プロテオグリカンなどで構成されています。プロテオグリカン集合体の表面には、髭のようなコンドロイチン硫酸が付いています。新しい薬のコンドリアーゼは糖鎖の分解酵素で、コンドロイチン硫酸など多糖類を分解する作用があります。糖鎖が分解されると保水力が減少し、椎間板内圧が低下するので、ヘルニアが収縮します。これで神経の圧迫が解消されます」
この酵素は名古屋大学の鈴木旺教授らがプロテウスブルガリスという土壌菌から抽出した。利用法が名古屋大学の岩田久名誉教授らにより検討される中で、椎間板ヘルニアに対して本格的な研究が開始され、日本発の椎間板ヘルニア治療薬が誕生した。
以前、アメリカで開発されたヘルニア注射薬が欧米を中心に広く使用されていたが、成分がたんぱく質分解酵素であり、注射薬が漏れた際、神経や周囲のたんぱく組織に対する安全性に問題があった。その点、コンドリアーゼは糖鎖の分解酵素のため、安全性に配慮した薬となっている。