長い人生を送るなかで、人はいろいろな節目を迎える。先人の知恵を借りたいところだが、長命が珍しくなくなったいま、どのような70歳、80歳になるかを誰もが模索している状態だ。今年、古希を迎える諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、70歳の壁について考えた。
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僧侶の高橋卓志さんは、みんなから「ジンさん」と呼ばれている。長野県松本市にある神宮寺の住職だからだ。臨済宗妙心寺派のれっきとしたお坊さんだが、ジンさんに宗派を尋ねると、「みなのしゅう」とダジャレが返ってくる。
ジンさんとぼくは同い年。ともに今年古希を迎える。つきあいも長い。ぼくが代表をしている日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)では、発足当初、事務局長をしてもらった。JCFの財務基盤や人脈をつくったのはジンさんだ。
東日本大震災の直後は、諏訪中央病院の医師や看護師らと一緒に被災地に入って、後方支援に当たった。まだガレキの散乱する町で、毎朝早く、彼は体育館の遺体安置所へ赴き、お経をあげた。突然、命を奪われた人たちと、その死を必死に受け止めようとする遺族たちにとって、どんなに心の慰めになっただろうか。その読経は、今もぼくの脳裏に響いている。
そんなジンさんは、神宮寺の住職を父親からしぶしぶ継いだ。「何も考えずにお経をあげるだけの眠ったような坊主だった」と、当時の自分について語っている。