見かけると思わず手が伸びてしまうのが惣菜。おいしい思いを体験すると習慣化もしやすい。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。
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この10年、食市場は内食、中食(惣菜)、外食とも伸びている。とりわけ中食(惣菜)市場の伸びが著しい。一般社団法人日本惣菜協会が発表した「2018年版 惣菜白書」によれば史上初めて、10兆円を突破し、10兆555億円に到達した。
中食のなかでも全国的に購入頻度の高い人気の惣菜が「コロッケ」だ。今回の調査では「購入場所別に見た購入頻度の高い惣菜」についても調査が行われているが、首都圏、近畿圏、中京圏、北海道という4エリアでコロッケが1位を獲得している。
コロッケを家庭で作るとなると、玉ねぎとひき肉を炒め、じゃがいもをふかしたものをつぶしたものと合わせてしっかり混ぜ、小麦粉、卵、パン粉をつけて揚げるという、かなり手のかかったものになるが、惣菜として買うなら1個数十円~100円前後。しかもおなかもしっかりふくれる優秀なおかず。コロッケはとても中食にむいたおかずなのだ。
では2位以下はどうか。各エリアとも顔ぶれは似ているものの、細かな順位の違いに地域性が反映されている。
例えば北海道と首都圏の2位は「鶏の唐揚げ」。北海道では「ザンギ」とも呼ばれ、家庭、外食、コンビニのホットスナック問わず、北海道全域に根ざしたソウルフードと言っていい存在だ。こう書くと道民からは「から揚げとザンギは違う!」と猛烈なクレームをいただきそうだが、他府県人から「鶏のから揚げ何が違うのかわからない」と首をかしげられがちなのも事実だ。
北海道のローカルコンビニチェーンであるセイコーマートには「から揚げ」に並んで北海道独自の「ザンギ」が併売されているが、現地で聞いても「味が濃いのがザンギ」「にんにくが効いているのがザンギ」「衣がデンプンなのがザンギ」とその線引きは道民それぞれに違っていた。
しかも同じ北海道内でもザンギは地域ごとに異なる。「釧路ザンギ」などは薄味で揚げたザンギをウスターソースベースの各店オリジナルのソースで食べたりもする。北海道には地域の数、家庭の数、人の数だけザンギの定義があると考えてもいいほど、「鶏の唐揚げ文化」は北海道に根づいているということか。
近畿圏の2位「巻寿司」も地域特性を現している。すしといえば、全国的には握りのイメージが強いかもしれないが、大阪ではにぎりよりも「バッテラ」などの「箱寿司」が生活に根ざしている。近畿圏の人にとっては、箱寿司や巻きずしのように成型されたすしのほうが生活のなかにあったものだった。