年間延べ3億人が利用する新幹線の中で発生した殺傷事件。6月9日、東京を出発した新幹線のぞみの12号車のシートに座っていた小島一朗容疑者(22)が無言で立ち上がるなり、手にしたナタで両隣の女性に切りかかった。二列後ろの席から制止しようとした会社員の梅田耕太郎さんは、小島容疑者に何度も切りつけられ、命を奪われた。
逃げ場のない“密室”、あるいは不特定多数の人物が利用する施設では、そうした“事件”が発生した際に咄嗟の判断と機転が生死を分ける。不測の事態に巻き込まれたとき何ができるのか。
新幹線における危機回避の鉄則は、地下鉄など通勤電車の場合でも変わらない。警視庁で長らく要人警護に携わった元SPの金井祐一氏は「“こと”が起きる前の意識こそ大切だ」という。
「公衆の面前でブツブツと独り言を言い続ける人や、周囲をにらむような目つきで見渡している人。とにかく自分の感覚を大事にして、すこしでも“変な人だ”と思ったら、他に座る席がなくても、まずは場所を移動する」
だが、その隙もないまま、男が襲いかかってきたらどうすべきか。危機管理コンサルタントの丸谷元人氏は、どのような状況であっても原則的に「【1】逃げる、【2】隠れる、【3】戦う」の順序を崩さないことが重要だと指摘するが、このうち最後の選択肢「戦う」しか残っていない場合、金井氏は「暴漢を倒そうとする」のではなく、「逃げるために戦う」ことを考えるべきとする。