「タンタカタカタカ、タンタンタン~♪」軽やかなメロディーと共に、1957年から放送を開始した『きょうの料理』(NHK Eテレ)。1958年5月には『きょうの料理』のテキストが創刊し、今年で60周年を迎える。そこで、『きょうの料理』とともに日本の食卓の60年の歴史を振り返ってみよう。
創刊当時の主婦たちの料理スキルは高く、煮物やおひたしなど和食はみんな作れて当たり前。憧れたのは、バターや生クリームを使ったおしゃれで華やかな洋食だった。番組では、“洋行帰り”といわれるフランスやアメリカでの駐在経験を持つ外交官の妻である料理研究家が本格的な西洋料理を紹介。主婦たちはテレビの前でメモをとりながら、憧れの洋食を夢中で学んだ。
1960年代後半になると、日本における四川料理の父『四川飯店』の陳建民、『帝国ホテル』料理長の村上信夫、『ホテルオークラ』フレンチシェフの小野正吉、『辻留』辻嘉一など、和洋中の一流料理店の名物料理人がこぞって登場。“本格志向”のレシピが人気を集める。
1971年、カップヌードルやマクドナルド1号店が登場し、「早い、安い、うまい」が求められるようになった。1人前15~20円で作る献立を紹介した「やりくり料理」が大反響を呼び、テキストが完売。後に、材料費500円で4人分の夕食を作る「経済的な献立」シリーズも大ヒット。家族のために節約料理を熱望する主婦の姿は、今も昔も変わらない。
1973年に石は油ショックが起こり、賢くやりくりをして家計を助ける経済的な料理が注目される。共働きの家庭が増え、簡単でおいしいスピード料理が反響を呼ぶように。
1955年頃から厚生省(当時。現在の厚労省)は40~60代の働き盛りの成人を襲う糖尿病、脳血管障害、悪性腫瘍、心疾患などの慢性疾患を総称して“成人病”(1997年に生活習慣病に呼び名を改める)と呼び始め、注意喚起をしてきた。戦後、和食から洋食へと日本人の食生活が変わり、1970年代後半から飽食の時代に突入。
いよいよ成人病は、深刻な問題となり、1979年に特集された「成人病の食事」は、2000件の電話が鳴り止まないほど大反響を呼んだという。1980年代中頃からは“ヘルシー”や“ダイエット”がキーワードに。その後も『きょうの料理』では、全国生活習慣病予防月間である2月に、生活習慣病に関する料理を特集してきた。
グルメ漫画『美味しんぼ』の連載が始まった1983年、『きょうの料理』も毎週土曜日に「男の料理」の特集をスタートさせた。「男子厨房に入るべからず」の時代は終わりを告げ、単身赴任者やひとり暮らしの男性など、男性が料理をすることも特別ではなくなった。「男の料理」にはプロの料理人だけでなく、著名人やタレントも出演。自慢のレシピを披露し、男性が料理の腕をふるう姿は新鮮だった。