東京23区内の、あるセブン-イレブン。コーヒー関連の冷蔵棚を覗いてみると、最上部に従来の、いわゆるレギュラー缶と呼ばれる缶コーヒーが並び、その下の棚にはボトル缶。さらにその下で、2段にわたって商品スペースを占めていたのがペットボトルコーヒーだった。これまで主流だった缶コーヒーは、隅に追いやられてしまった印象さえ受ける。
1年前、サントリー食品インターナショナルがペットボトルコーヒーの「クラフトボス」を発売すると、初年度に1000万ケースの販売を超すヒット商品に。これを横目で見ていたライバルメーカーたちも一斉にペットコーヒーを投入し、「クラフトボス」に交じって日本コカ・コーラ、アサヒ飲料、伊藤園、UCC上島珈琲、AGFの商品もコンビニの棚に並んだというわけだ。
一方、本家本元のサントリーも負けじと、6月19日から「クラフトボス」の「ブラック」「ラテ」に続き、その中間商品といえる「ブラウン」を投入した。「既存商品との多少の食い合いは覚悟のうえ」(サントリー食品インターナショナルジャパン事業本部ブランド開発第二事業部課長の大塚匠氏)としたうえで、さらなる市場拡大を狙う。
だが、この「クラフトボス」、当事者のサントリー幹部が「最初に社内で試飲した時は正直、これで売れるのかと思った」と振り返る。理由は、従来の自社商品のコーヒーに比べて、明らかにライトな味わいに統一したためだ。コーヒー好きから、コクが物足りないと敬遠される可能性もあると感じたのだろう。
だが、フタを開けてみれば予想外のヒットとなった。オフィス需要、特にIT関連企業で一日中パソコンと向き合って仕事をする若年層に照準を定めたのだが、そうした層に「クラフトボス」は、ほぼ想定通りはまった格好だ。
では、コーヒーの市場自体は現在、どうなのか。飲料総研取締役の宮下和浩氏はこう解説する。
「コンビニコーヒーやコーヒーチェーン店も含めて、コーヒー市場トータルでは拡大しています。ただ、いわゆる缶コーヒーの市場は縮小していて厳しい。飲料メーカーも過去、ペットボトルのコーヒーは出しましたが、その時は売れなかったんです。容器は変えても中身の味は従来と大差なかったからでしょう。
今回の『クラフトボス』は、コーヒーのプロたちから見れば“こんな麦茶みたいな(ライトな)味で売れるわけがない”と否定してきたテイストですが、結果的には若い人や女性にウケて成功しました。いまのところ、『クラフトボス』の売り上げに匹敵する類似商品は、まだ出ていない感じですね」