いま、地方の大型ショッピングセンターなどに遠隔地ナンバーのワンボックスカーがあらわれ、しばらく停まったあと次の土地へと移動する光景が、全国でみられるという。同じワゴン車に乗り合わせて旅をするといえば、恋愛リアリティ番組の『あいのり』がよく知られているが、そんなロマンチックな乗り物とはかなり異なるらしい。女性たちを乗せたワンボックスカーは、なぜ日本中をさすらっているのか、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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中部地方の某市にある大型ショッピングモールの駐車場。そこに一週間ほど、白いトヨタのワンボックスカーが朝から晩まで停まっていた。ナンバーは周辺ではめったに見かけることがない東北地方某県のものだったという。車を目撃した地区の自治会長が振り返る。
「他県の、しかも遠方のナンバーで、見た目もボロボロ。最初は盗難車かと思ったがエンジンはかかっている。さらには毎日停まっているし、よく見ると運転手のほかに、三~四人の女性が乗っている。気味が悪いったらありません」(地区の自治会長)
いつの間にか消えていたワンボックスカーが、またしてもその駐車場に現れたのは三週間ほど前。さすがに不審に思った自治会長が車を観察したところ、朝の九時ごろにやってきて、一時間に一度くらいのタイミングで別の車がワゴン車に横付けされると、女性がサッと乗り換えて、どこかへ向かっていく。また一時間ほどすると同じ女性が帰ってくる。別の女性が同じように出ては戻ってくる、ということも繰り返し、それは深夜まで続いた。
「実は警察に通報もしたんですが、ただ停まっているだけだということで、対処 のしようがないと言われました。ショッピングモール側も“お客様であることを否定できない”という ことで不介入。田舎なのでショッピングセンター利用者以外の駐車場利用も暗黙の了解で、誰でも好きな時に、23時の閉店まで停められるんです。町会の若い人が調べたところ、彼らの正体が移動式の派遣型性風俗業者だということがわかりました」(前出の自治会長)
携帯電話やインターネットを利用して客を募る派遣型風俗店が増えているが、同じように増えているのが、ネット掲示板やSNSを利用して客を募る「援デリ」業者だ。「援助交際」と「デリバリー」を合わせた造語で、援助交際を装って客を募り、性的サービスをする女性を派遣する業者の事である。利用者は「援助交際」のつもりで女性とアポイントを取り付けるが、実は女性のふりをした男性が掲示板に書き込んだり、客とのやり取りを行っており、場合によっては「管理売春」にもなりうる行為だ。だが実態はほとんどが無届の“援交風”性風俗業者であり、主に都市圏で、このような事例が横行しているのだという。
「この数年でこの手の業者が爆発的に増えましたが、客だって“援助交際じゃないぞ”とか、騙されるかもしれない、危ないと気が付き始めました。そこで業者は、女の子を連れてワンボックスカーなどで全国を転々とし、その先々で金を稼ぐ。首都圏から少し足を延ばした中部地方だけでなく北海道から沖縄まで、こうした業者が回っているそうです」
こう話すのは、東京都内の性風俗店関係者・X氏。手軽に始められるということで、派遣型風俗ビジネスに乗り出した知人らが、最近になって「これでは食っていけない」と廃業していくのを見てきた。ところが一部の業者は、女性数人と車一台に 携帯電話一台を握りしめ、全国を転々としながら、生き残りを図っているのだという。通常の派遣業者が用意する女の子たちの待機場所はマンションの一室など「家」と呼べる場所の代わりに、放浪しながら仕事を続ける彼らは、ワンボックスカーを待機場所にしている。そして、送迎車とドライバーは現地で雇っていることが多い。