映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、出演映画『万引き家族』『モリのいる場所』が公開中の女優・樹木希林が、ドラマ『七人の孫』主演の森繁久彌さんから学んだことについて語った言葉をお届けする。
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樹木希林は文学座の若手だった頃から率先してテレビCMに出演している。
「その頃のいい役者の条件は『一に舞台、二にせいぜい映画、テレビは邪道だけどしょうがない。CMやるなんていうのは恥ずかしいこと』と言われていました。そういう時代にCMの話が来たの。地方のローカルCM。
それで『やります』って。舞台は一ステージ百八十円だったから、そりゃCMの方が良かったわね。先輩の女優さんに『芸が崩れる』とか注意されたけど、もともと芸なんてないんだからさ、崩れようがないのよ。で、『いいのいいの、三流でも四流でも』って気にならなかった。価値観が違うから」
日本のホームドラマの元祖と言われる森繁久彌主演『七人の孫』(TBS)にレギュラー出演、注目されることになる。
「あれは錚々たる劇団とかいろんな場所のスター候補がスターになるべく孫役に選ばれていくわけよ。で、七人が揃ったんだけど、みんなスターだから動かないわけよね。話を運ぶ役割がいない。それで、当時ペーペーだった久世光彦さんが『女中が一人いないと運びが悪いから、どこかで斡旋してこい』と言われて、文学座に来たの。そこに私たち研究生が五人くらいいて、『誰か残れる人いない?』と言ってきたんだけど仕出しみたいな役だと思ってみんなやりたがらなくて。私は『大丈夫よ』って。それで行っただけなの。まだ時間があったからね。役をやるなんて意識はなくて」
日常空間で展開されるホームドラマは、樹木希林の育った新劇の非日常とは芝居が異なる。