このクールは意外性のある作品の健闘が光った。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が総括する。
* * *
4月クールのドラマも次々に幕を閉じました。振り返って新鮮なチャレンジや斬新な収穫となった秀作を3本挙げてみると…。
●『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)
田中圭が演じる春田創一が主人公。春田をめぐって、吉田鋼太郎演じる乙女な上司・黒澤と、林遣都演じる真面目な後輩・牧とが三角関係に……既存の路線から踏み出した、異色の恋愛ドラマでした。
見所は、乙女心でぐいぐいと迫る黒澤部長、ごく平凡な営業マン・春田の対比。求愛を受ける春田の狼狽ぶり慌てぶり、内面のつぶやきがあまりに面白くて吹き出した人も多いはず。放送時間帯も深夜なのでさぞやクロウト受けするドラマと思いきや……なんと、女子を中心に大ブレークしたのでした。
その人気はドラマ内に留まらず、田中圭の写真集は即座に重版決定、ドラマ内で使われたマグカップは品薄状態。LINEスタンプもスタンプショップ売り上げ1位。SNS戦略もドンピシャ当たりTwitterの世界トレンドで「#おっさんずラブ」が1位となり、フォロワーが50万人超と凄まじい。まさかここまでとは制作サイドも想定していなかったのではないでしょうか?
このドラマ、興味深いのは男性より女性が好んだという点。例えば「全国100人の40代おじさんが選ぶ、面白かった春ドラマTOP10」(日刊SPA!)を見ると、そのベスト10位にもランクインしていないのです。
ではいったい、女子に大当たりした理由とは何なのか?
「はるたんの真っ直ぐでバカで優しくて、嘘がなくてバカで可愛くてよく食べてバカでカッコイイところが大好きです」
黒澤部長のこの言葉が一つのヒントになりそうです。つまり、「人を愛する」という、非常にシンプルなようで矛盾していて、奥の深いテーマを正面から掴み出そうとした。
設定も効果を発揮しました。もし、これが凡庸な男と女の恋愛ドラマだったら? こんな言葉は妙にクサかったりウソっぽく響いてしまったかもしれない。しかし、吉田剛太郎が田中圭相手に語るのならば、「あり」でしょう。コメディタッチで上手に攻めたことによって、ふざけているシーンと真面目なシーンとがメリハリをもって区分けされ、「愛する」ということの「精神性」がくっきりと浮き上がってきました。
女子が反応したのは結局、「人が人を好きになること」、そのピュアでシンプルで複雑な心情だったのでしょう。
●『あなたには帰る家がある』(TBS系)
「愛すること」をテーマにしたドラマといえば、『あなたには帰る家がある』も同様です。このドラマ、事前に主婦100人以上のリサーチを元に脚本を練り上げたという触れ込みで、スタートしたとたん真弓のセリフに共感する視聴者が続出。
主人公の佐藤真弓(中谷美紀)は、家事は適当でやや大雑把な性格、どこにでもいそうな元気な主婦。日頃抱いてきた、家事をワンオペしている苦労をわからない夫へのいらだちを、的確に言い切るセリフ。それが女性視聴者の不満のはけ口になりました。番組サイトの掲示板も活況を呈し、野球でいえば「キャッチャー」役のように機能した。その意味で斬新でした。