夫や交際相手に青酸化合物を飲ませて殺害。多額の遺産や保険金を手にしていたとされる筧千佐子被告(71)。昨年、京都地裁で開かれた公判は世の注目を集めたが、事件の全てが明らかになったとは言い難かった。そこでノンフィクションライターの小野一光氏は、拘置所にいる彼女と面会を重ね、その記録を『全告白 後妻業の女「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)にまとめた。著者が見た“後妻業の女”の実像とは──。
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「私も昔はオシャレやったんやけど、ここ入ってから、もう全然構わんくなったんよ。男の人がおらんのやもん。やっぱ、男の人がおらんと、そういう気にはならんわ」
京都拘置所の面会室。アクリル板の向こう側で、千佐子は対峙する私に向かってそう口にした。
小柄でややふっくらした、見たところ“関西のごく普通のおばちゃん”である千佐子は、早いリズムで次々と言葉を繰り出してくる。
私が「近畿連続青酸死事件」の被告である千佐子と初めて面会したのは昨年11月のこと。3件の殺人罪と1件の強盗殺人未遂罪を問われた彼女に、京都地裁が死刑判決を下して間もない頃だった(即日控訴)。以来、千佐子とは今年3月までに22回の面会を重ねた。
一連の事件が発覚したのは、2013年12月末に彼女の夫で京都府向日市に住む筧勇夫さん(当時75)が自宅で死亡したことに端を発する。筧さんの体内から青酸化合物が検出され、事件の疑いが浮上したのだ。