上半期のドラマで、主役級の役者以外に抜群の存在感を放っていた役者がいる。尾上寛之(おのうえひろゆき・32才)だ。連続ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)での猟奇殺殺人鬼役は記憶に新しいところ。名前を知らなくても、顔は見たことがあるという人も多いのではないか。コラムニストのペリー荻野さんがその魅力について解説する。
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2018年度上半期のドラマを振り返って、いちばん働いた俳優は誰か。それは文句なく、尾上寛之だ。
衝撃的だったのは、『アンナチュラル』。依頼を受けて死者の解剖を行うラボを舞台にしたこのドラマで、尾上はヒロイン(石原さとみ)の同僚で偏屈医師(井浦新)の恋人を惨殺した猟奇殺人鬼役。恐ろしいことに殺害方法をアルファベット順に26人もの殺人を繰り返し、自分のした悪行を思い出して、「うひひひ」と笑う。不気味さ全開で強烈な印象を残した。
その記憶も消えていない中、今度は『シグナル 長期未解決事件捜査班』(フジテレビ系)に登場。主人公の刑事(坂口健太郎)が追う1997年に発生した連続殺人事件の真犯人役だった。こちらも自分がしたことに対しての反省はゼロ。バス運転手だった父親(モロ師岡)が自分をかばって偽証した上、新たな殺人事件まで起こしているのに、平然としたこの真犯人もまた、強烈だった。
これで終わるのかと思ったら、三度目もあった。今度は『執事 西園寺の名推理』(テレビ東京系)に出演。警察犬の訓練士が殺された事件で、愛犬家を装いながら、実は犬を虐待する悪質ブリーダー、しかも、そのことを知った警察犬の訓練士を殺害するという悪人を演じ、西園寺から「言い逃れはできませんよ!」と厳しい顔でにらまれる結果となった。
いやいやもう、驚くべき強烈殺人者役三段活用。犯罪ドラマでは、キャラが固定した主人公ではなく、むしろ犯人がいかに個性的で、予想を裏切るキャラクターであるかが勝負となる。その意味では、人のよさそうな外見にして、心の奥底にどす黒さを感じさせる犯人を演じきった尾上寛之がいてこそ、これらのドラマは盛り上がったのである。