作家の甘糟りり子氏が、現代の「ハラスメント社会」での処世術について考察する。今回は「おっさん」というワードの使い方について。
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おっさんという言葉がやたらとピックアップされている今日この頃。
筆頭は、なんといってもサッカーW杯日本代表、おっさんジャパンの躍進だろう。直前の監督交代でほとんど期待されていなかったのに、まさかの決勝トーナメント進出だ。対ポーランド戦での最後のパス回しにはいろいろな反応があるが、とにもかくにも生き残った。あの戦い方、というか処世術にブーイングする人は、ゴジラ松井秀喜の高校時代、5打席連続敬遠にも文句いったんだろうなあ。スポーツに清廉潔白を求める度合いは人それぞれだ。
予選トーナメントのゴールを振り返ってみれば、香川真司29歳、大迫勇也28歳、乾貴士30歳、本田圭佑32歳。見事な「高年齢ゴール」のオンパレードである。守護神・川島永嗣に至っては35歳。サッカーは詳しくないが、野球やゴルフならまだしも90分間走り続けるスポーツでこれだけアラサーが活躍するのはすごいことなのではないだろうか。
最後の最後、監督からのあの異例の伝達のために投入されたキャプテン長谷部誠は34歳。これこそ、おっさんが適任である。年齢とキャリアによる説得力がものをいう。
おっさん、やるじゃん。
W杯の少し前、『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)というドラマが放送されていた。
大手不動産会社での社内恋愛を描いた物語だが、恋愛の中心人物のほとんどが中年男性なのである。それ以外は至ってオーソドックスなトレンディ・ドラマだ。ビジネススーツを着たおっさんがビジネススーツを着たおっさんに、ワクワクしたりもやもやしたり、照れくさいセリフをいったりする。フラッシュモブでプロポーズするのもされるのも、おっさん。
これが若いイケメンと美女とならシラけるのだろうが、おっさん=恋愛弱者たちだと勝手に思っているから、応援もしたくなる。ついおっさんをいたいけに感じてしまうように、ドラマは作ってある。
おっさん、かわいげあるじゃん。
若者のピュアさは何にも侵略されていない良さなら、おっさんのピュアさは清濁を煮詰めてさらにそれを濾した味わいではないだろうか。仮に、そんなものがあるとしたならば、だけれど。
クルマの中でそんなことを考えながら、打ち合わせに向かった。相手は同世代の男性編集者。三十代の頃から、何度も一緒に仕事をしてきた。
最近では本題に入る前に健康の話題をするのが恒例だ。愚痴半分、報告半分で。かつては、どんな新しいレストランに行ったか、を競い合っていたのというのにね。
彼は、アーモンドミルクラテを注文してから、ガンマの数値についてあーだこーだと話し始めた。中年ならたいていご存じかと思うけれど、γ-GTPとは肝臓の機能を測る数値である。
ひとしきり話してから、彼はいった。