認知症などにより意思疎通が図れなくなった本人に代わって財産管理を担う──成年後見人制度の利用者は年々増加し、2017年末時点で21万人。その一方で、後見人に絡んだ介護や相続をめぐるトラブルも増えている。それは、日本を代表する大新聞の“オーナー家”も例外ではなかった。ジャーナリストの伊藤博敏氏がレポートする。
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「社主は、1年前まで話しかけると表情豊かに笑い、頷き、気分が良い時には歌もうたっていた。今は医師でもある成年後見人の方針で『見守り』に徹し、誰も話しかけることがなくなり、表情と言葉も失った。可哀想でなりません」
朝日新聞の村山美知子社主(97)の親族は、力なくこう語った。1879年創刊の朝日新聞は、村山龍平氏を創始者とし、村山家が株の3分の2を保有してスタートした。
非上場ゆえ株は村山家で受け継がれ、その該当者は「社主」と呼ばれる。美知子社主は、龍平氏の女婿・長挙氏の長女で、生涯独身で子供はいない。40年以上前から社主を務めているが、2年前の7月、肺炎をこじらせて大阪の北野病院に緊急入院。集中治療室を経て、今は特別室に在室している。
要介護度5で歩行困難。経鼻栄養チューブで食事を摂り、会話は気管切開部に装着して発声する医療器具が必要で、認知症も進んでいるという。
しかし、美知子社主が雇っていた介護スタッフが、付きっきりで介護にあたり、一時は「笑い、うたい」といった行為ができるまで回復したという。