安倍政権が成長戦略と位置付ける“民営ギャンブル”が動き出した。カジノを含む「IR(統合型リゾート)実施法案」が衆議院で可決され、経済成長を促すことが期待されているが、大前研一氏は「カジノが経済を活性化させることはない」と考えている。大前氏が解説する。
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安倍首相はカジノを成長戦略の目玉と位置付けているが、それは大間違いだ。そもそもカジノは「VIPルーム」がなければ成立しないビジネスだ。カジノには安い掛け金で誰でも遊べる「平場」のエリアと、最低賭け金が1000ドルにもなるVIPルームがある。収益の大部分を稼いでいるのは、バカラで100億円以上負けた大王製紙の創業家3代目のようなハイローラー(高額な賭け金で遊ぶギャンブラー)を相手にする後者である。
私はマカオとシンガポールのカジノ関係者に話を聞いたが、どちらもカジノ全体の収益の85%はVIPルームが占めていると言っていた。つまり、掛け金が安い平場のエリアは賑々しく見せるためのショーケースにすぎず、そこから上がる収益はカジノ全体から見れば取るに足らないのだ。
しかも、マカオとシンガポールのカジノには特殊な事情がある。VIPルームの“上客”の大半は中国人富裕層だが、彼らの目的は遊戯ではなく「マネーロンダリング(資金洗浄)」だということだ。
中国では共産党が農民からタダ同然で収奪した土地を高収益の見込める商業地に転換し、その差額を地方政府が稼いでいる。農地を商業地にする開発事業を請け負うデベロッパーは、便宜を図ってくれる地方政府の役人に賄賂を渡さなければならない。