かつて銀行は、絶大な信用をもつ業種として存在していた。ところが近年では、いつ崩壊してもおかしくない危機にある──と言われている。経営コンサルタントの大前研一氏が、日本のメガバンク最大の危機について考察する。
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日本の銀行はメガバンクも地銀もジリ貧状態に陥り、経済紙誌には「銀行消滅」「銀行の危機」「銀行員が大量失職」「銀行員の不安」といった記事があふれている。
実際、日本経済新聞(5月17日付朝刊)によると、3メガバンクの2018年3月期決算では、本業の儲けがしぼむ一方で従業員数が増加した結果、1人あたりの生産性は5年前の半分に落ち込んだという。
決算会見で各行のトップからは店舗やATMといった固定資産の維持費用をいかに抑えていくかについての発言が相次いだそうだが、それは表面的な問題にすぎない。日本の銀行が抱えている本質的な問題は、当の銀行員たちが5年後、10年後の銀行のビジョンを描けていないことである。
たとえば、お隣の中国にはeコマース最大手アリババ傘下の金融会社アント・フィナンシャルの「アリペイ(Alipay=支付宝)」、SNSとオンラインゲーム最大手テンセントの「ウィーチャットペイ(WeChat Pay=微信支付)」というスマートフォンやタブレットPCによる簡単・便利な決済サービスがあり、利用者数がアリペイ約5億人、ウィーチャットペイ約9億人に達している。その結果、今や両社は決済だけでなく貯金や資産運用などの金融サービスも手中に収め、従来の銀行がほとんど“無用の長物”になってしまった。