モデルやタレントになりたい憧れにつけこんで、金銭的、精神的、身体的に搾取することを繰り返し、仕事にしている人たちがいる。これまで、そういった人たちが狙ってきたのは主に若い女性たちだったが、まず性別不問になり、さらに対象年齢が広がって中高年もターゲットにされている。ライターの森鷹久氏が、中高年まで狙い始めた芸能事務所もどきの実態についてレポートする。
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筆者が以前から追い続けている、モデルや芸能人になれるとスカウトするだけで実現できない「スカウト商法」。あこがれの職業であるモデルや芸能人になれると誘い、若い女性や子供を誘惑し、形ばかりのモデルや芸能の仕事をした体裁を整え、登録料やレッスン料などの名目でカネを巻き上げたり、さらには言いなりにならないと仕事ができないと思い込ませて体を弄ぶなど、とんでもない輩たちがみせかけの芸能事務所やモデルプロダクションを運営している実態について書いてきた。
ただし、こういった被害例がニュースで報じられても問題視されるのは一過性のことで、被害者が後を絶たないというのもまた事実。それでも、数年前と比べれば、こうした悪質な事案の存在を知る人々が増え、特に若者の間に「危険な芸能事務所がある」という認識が拡がっていることは、筆者にとっても喜ばしいことだ。しかしながら、悪質な芸能事務所もどきを運営していた者たちは、次なる手口をすでに考え、すでに実行しているようである。
東京都在住の会社員、丸田恭平さん(58歳・仮名)は、妻が頻繁に貯金を切り崩しだしたかと思うと、メイクや衣装が派手になり、毎週のように食事や飲み会に行きだしたことを、当初は「不倫」しているのではと疑っていた。
「妻は若いころに、少しだけモデル活動をしていました。とはいえ、もう60歳です。急に派手になって金遣いも荒くなり、不倫しているのかと口論になりました。ところが不倫ではないという。では”宗教”かと不安になりましたが、それでもない。最後に、妻はファッションショーに出て、またモデル活動を再開する、と打ち明けてきたのです」(丸田さん)
妻は「恥ずかしくて言い出せなかった」と説明したが、その後は何もかもを話してくれた。ネット上には妻が出演したというファッションショーのHPも存在し、確かに妻がステージをモデルとして闊歩する「ランウェイ写真」も掲載されている。
「妻が本当にモデルをしていたとは驚きました。が、生活が派手すぎて、金遣いも荒い。そのくせモデルとしての収入はない。これはおかしいと、さらに妻を問い詰めたところ、妻はショーに出る度に運営者に数万円から数十万円を支払い、さらに運営関係者の店で毎週のように食事したり飲んだり……。衣装も美容室も運営関係者の店で揃えさせられているということで、妻はカモにされているんじゃないかと……」
丸田さんの妻が出入りをしているというファッションショーとその運営団体は、いわくつきの団体だった。以前、男女問わず若者をネット上などで誘惑し「ファッションショー出演料」などの名目でカネを集めていたことで知られているのだ。
そのファッションショーなるものものひどくお粗末なもので、客はまばら、来ているのはモデルの親や友達くらい。そもそもチケットの販売もモデルにノルマが課せられていた。さらに、出演者たちはその他メイク料やレッスン料なども自分で払うように課せられている。ネット掲示板には、一方的に支払いばかりさせられた被害を訴える者らの悲痛な叫びが書き込まれていたが、運営関係者らによって次々と削除されたため、その痕跡を見つけることが難しくなっていた。