政府が推進する“働き方改革”、その最重要法案と位置づけていた「働き方改革関連法」が6月29日に国会で可決・成立した。最大の柱は時間外労働の罰則付き上限規制と並ぶ「パートタイム・有期雇用労働法」の制定などによる「同一労働同一賃金」の法制化だ。だが、これによって50代社員に予想外の“激痛”をともなって跳ね返ってくる可能性が出てきた。人事ジャーナリストの溝上憲文氏がレポートする。
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同一労働同一賃金の法制化については、すでに2016年12月に「同一労働同一賃金ガイドライン案」が示されている。だが、この中で唯一判断を保留していたのが「定年後の再雇用者の給与を下げることが許されるのか」だった。
保留したのはなぜか。係争中の最高裁の判決を待って書き込むことになっていたのである。
今では8割以上の人が60歳定年後に1年契約の有期契約社員として働いている。もちろん公的年金の支給がなく、生計維持のためだ。だが、再雇用後の給与は60歳時点の半額程度に引き下げているのが実態だ。
ところが、定年後再雇用者のトラック運転手の賃金減額の違法性が争われた「長澤運輸訴訟」の一審判決が賃金減額は不合理だという判決を下した後、人事関係者の間ではこのままでは今の再雇用制度は存続できないと騒然となった。だが、2審判決では、再雇用者の賃金減額は社会的に容認されており、不合理とはいえないとの逆転判決を出した。
人事関係者はホッと胸をなで下ろしたが、最終ラウンドの最高裁の判決が今年6月1日に下された。
最高裁判決の結論を先に言えば、定年後再雇用の社員と正社員の間の給与格差の大半については不合理とはいえないとした。しかし、注目すべきは最高裁の判断の基準である。最高裁は正社員と比べて有期の再雇用者は長期間雇用することを予定していないこと、一定期間を過ぎると公的年金が受給できるので正社員とのある程度の給与格差は容認されるとした。
ではどの程度の格差なら許されるのか。最高裁は原告の3人の運転手の基本給が正社員と比べて、それぞれ約2%、約10%、約12%の差にとどまっていること、またボーナスを含めた年収が正社員の79%であることを挙げている。
つまり、再雇用者であることを考慮するとしても、基本給が10%前後、年収が20%程度の違いがあるから「セーフ」と言っているのだ。逆に言えば、基本給が3~4割違うとか、年収ベースで4~5割違う場合は「アウト」になる可能性もあるということだ。
最高裁の判決内容は同一労働同一賃金の法制化の施行(大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月)に合わせて厚生労働大臣告示として出される「同一労働同一賃金ガイドライン」に書き込まれることになる。
企業によっては再雇用者の給与を上げざるをえなくなるだろう。当然、コストアップにつながる。企業の負担はそれだけでは終わらない。