門田:そうですね。この絵本にはウソがひとつもなくてすべて本当にあった真実です。
中国から上野動物園に移送されて檻の中で過ごしていたハチは寂しそうな目をしていました。“ボクはどうなるのだろうか?”という不安だったのでしょう。さらに戦時下、猛獣たちが犠牲になりました。
松成:絵本にも描いた、猛獣が殺処分された中に、ハチも犠牲になったわけですね。
門田:そうです。何も知らなかった成岡さんは、ハチが殺処分された1週間後に一時帰国したのです。なんという運命でしょうか。あれほどハチを愛していた成岡さんが泣くシーンは胸がしめつけれられました。いかに愛情を注いでもひとつ歯車が狂ってしまうと戦争となり、悲惨なことが起きてしまうのです。
松成:これこそ、戦争を知らない子どもたちにとって、生きた教材になると思います。
門田:ハチのはく製の見ていますと、国と国が戦争はしますが、お互い人間同士が憎み合ってはいけないとハチの口元や優しい瞳から伝わってくるのです。ハチを愛した成岡さんをはじめ日本兵たちの根底にあるのは戦時下でも失われなかった人間の優しさや心のあたたかさです。愛くるしさで人間の愛情にこたえたヒョウがいたことも、そしてひとつの命をこんなにも大切にする人たちが、それでも戦争をしなければならなかった悲劇も事実ではあります。
ハチは今もはく製となって姿にとどめ、私たちにいろいろなことを考えさせてくれているのだと思います。
この絵本を通して、真実を知ってもらいたい、人間の優しさやあたたかさが戦火のなかでも失われなかったように。弱い者であるヒョウのハチのように生きることが許されなかった事実もありました。できたら、みなさんにはぜひハチに会いに高知に足を運んでいただきたい。本物のハチは可愛いですからね。