夏は歴史に思いを馳せる季節、世代を超えて語り継いでいかねばならないことがある。野生のヒョウと真心で通じ合った心優しい兵士の物語──夏休みを前に発売された絵本『ヒョウのハチ』の作者であるジャーナリスト・門田隆将氏と絵本作家の松成まりこ氏が、戦争を知らない子どもたちについて語り合った。
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門田:松成さんは、子どものころ、将来なりたい職業は何でしたか。
松成:ピーヒャラ・ドンドンと音を鳴らす、ちんどん屋さんでした(笑)。楽しくて、お化粧していてきれいで、あこがれていたんです。小学生のころは絵を描くことが大好きで、授業中はノートに落書きばかり。中学の卒業式には模造紙に先生方の似顔絵を描いて喜ばれた思い出があります(笑)。
門田:へえ、松成さんがちんどん屋さんとはおもしろい。当時、ちんどん屋さんは大人気でしたからね。私は、小学生のころからスポーツが大好きで、野球、ボクシング、相撲の結果を友だちに解説したり、新聞記事を切り抜いてはスクラップしながらコメントを書いたりしていました。小学四年生のころには『ジャーナリストになる!』と決めていたんです。
松成:小学生で将来の道が決まっていたんですね。私は紙芝居屋さんが来ると絵本を見ますが黄金バットばかりでつまらなくて、駄菓子を楽しんでいました(笑)。
門田:でも絵本に興味を持たれて、大人になった松成さんも私もその延長線上にいたからこそ、今回の絵本でご一緒して作ることができたのは、ハチが会わせてくれたのかもしれませんね……(笑)。
◆「豹変」人間は野生のヒョウを飼うことなどできないはずが……
門田:絵本のもとになったきっかけは、取材で出会った事実でした。高知県出身の私が幼いころから地元の歩兵部隊236連隊、通称“くじら部隊”が中国へ行っていたことは知っていたのですが、日本兵の成岡正久小隊長という人物が赤ちゃんのヒョウを育てていたとは知りませんでした。ノンフィクション『奇跡の歌』の取材を重ねていくうちにこのハチのエピソードと出会ったわけです。まさか、人間とヒョウが切なく、悲しい実話があったとは本当に驚きました。
今回、松成さんの原画を拝見したとき、素晴らしい、の一言に尽きました(笑)。人間社会に入り込み、兵隊たちに愛情を注がれ育てられたヒョウのハチの愛くるしさが、そのまんま描かれて、ほんまにうれしゅうて、感激しました。