【書評】『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』/野嶋剛/小学館/1500円+税
【評者】川本三郎
いま日本では台湾が旅行先として人気がある。台湾は親日的というイメージも強い。しかし、日本は戦後、長いあいだ台湾のことを忘れていた。ようやく台湾が近くなったのはホウ・シャオシェン監督やエドワード・ヤン監督の映画が公開されてからではないか。
野嶋剛『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』は、戦後日本が長く台湾を忘れていたことの反省から書かれている。こういう視点からの台湾本はこれまでなかったのではないか。蒙を啓かれる。
日本で台湾のことがほとんど語られなかった時代に、それでも、自分が台湾生まれで、なんとか日台の架け橋になろうと努力してきた人(それを著者は「タイワニーズ」と呼ぶ)がいた。彼らの地味な活動が、今日のよき日台関係の基礎を作った。
登場するのは十一人。蓮舫、東山彰良、ジュディ・オング、安藤百福、邸永漢ら。着眼がいい。とくに新しい世代の作家である東山彰良と温又柔を入れているのが新鮮。著者はジャーナリストであり、一人一人、インタビューを試みている。物故者の場合は親族に。中国語が出来るのが強味。