【書評】『私たちは中国が世界で一番幸せな国だと思っていた』/石平・矢板明夫・著/ビジネス社/1300円+税
【評者】平山周吉(雑文家)
中国のことを誰よりも肌身で知っている、二人の正真正銘の“日本人”による対談本である。二人は中国で生れ育った。一人は日本に留学した中国人エリートだが、日本に帰化する。もう一人は日本人残留孤児二世として天津で過ごし、十五歳で家族と共に帰国した。年齢は十歳違いだが、同じ年に日本の土を初めて踏んだ。天安門事件の前の年、一九八八年である。
評論家の石平と産経新聞の矢板明夫は、中国の痛い所と痒い所を熟知している。中国が最も嫌がる論客であろう。その二人が存分に語り合い、『私たちは中国が世界で一番幸せな国だと思っていた』と意表を衝く。世界中の情報から遮断され、毛沢東思想に洗脳され、「日本人民、アメリカ人民、世界の人民は、みな毎日食うや食わずの生活をしている」と教室で教えられていたからだ。
ジョン・レノン暗殺の報に接しても、「どうも歌手みたいな人間が殺された、やっぱりアメリカは治安が悪い」で納得してしまう。国慶節などの祝日が近づくと「公開処刑」という娯楽がある。学校の体育館に「芸術鑑賞みたいな感じで集められて、反革命分子が死刑判決を宣告される」。銃殺まではお祭りの見物となる。ストレス発散と恐怖心植えつけを兼ねた格好の教育の場であった。
トウ小平時代にはなくなった公開処刑は、習近平時代になって復活した。「習近平の政治手法は完全に毛沢東と同じです。もう人権的な発想などまったくありません」。