ライフ

認知症母の施設転居で 「人のモノを捨てる」重さを痛感

母が認知症の記者、引っ越しの苦労を回想

 父の急死によって、認知症の母(83才)の介護をすることとなったN記者(54才・女性)が、4年前の夏を振り返る。自宅を引き払い、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に移る際の「部屋の片づけ」をめぐる葛藤だ。

 * * *
 2014年夏、認知症で激やせした母を、ゴミ屋敷寸前の家から救出すべく現在のサ高住に転居させた。その結果、状況は好転したのだが、母の人生を背負った重みと容赦ない夏の暑さは、更年期の心身にガツンと響いた──。

 認知症の母にとって4年前の夏は大きな分岐点となった。父の急死をきっかけに認知症が悪化し、家の中も荒れ放題。もう独居は限界だと、介護職が身近にいるサ高住への転居に踏み切ったのだ。

 とはいえ、その時点で考えていたのは、悲惨な現状からとりあえず母を避難させることだけ。まず生活をコンパクトにし、将来的なことはその後…と思っていた。

 引っ越し計画はこうだ。母の暮らす3LDKの家から、新生活に必要な物だけを段ボールに詰める。母の転居後、私が必要品を持ち帰り、残りは廃品業者に処分してもらう。作業は単純。サクサクやればあっという間だと思った。

 ところが、その作業が曲者だった。どこにこれだけ収まっていたのかと唖然とするモノ、モノ、モノ。母が若い頃に着たよそ行きの服から、私が学校で褒められた習字まで、半世紀以上の家族の軌跡が手つかずのまま残っていた。

 そして、「ボチボチ片づけるわよ」と母が言って、ついに着手されなかった父の遺品。懐かしさと切なさが押し寄せ、私の心はもうパニックだった。

 それでも前に進まなきゃと、大量の物をより分けていると、「この服、捨てちゃうの? まだ着られるじゃない」と母。まったく戦力にはならない。

「この巨大肩パットの服、古すぎるって! 恥ずかしい思いをするよ」と嫌みを言った。

「でもこれは持って行って。ママが一生懸命に働いた思い出なの」と、母が差し出したのは預金通帳だった。昔、父が病気で休職したとき、母が働いたパートの振込口座だ。

 横面を叩かれた思いだった。私は今、母の人生を解体し、母の心の糧になる品も含めてより分け、箱に詰めているのだ。最強の冷房が効いているのに、全身から汗が噴き出た。

関連キーワード

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン