お笑いコンビ・くりぃむしちゅーの有田哲平が司会をつとめるAmazonプライム・ビデオのトークバラエティ『有田と週刊プロレスと』第3シーズンが始まった。自分の好きなプロレスの世界で起きた過去の事件やレスラーたちについて、その面白さを伝えつつ、人が聞いて面白いトークに昇華する有田の話芸について、イラストレーターでコラムニスト、中野区観光大使でもあるヨシムラヒロム氏が考えた。
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10年以上、芸人が話す深夜ラジオを聞いている。ラジオの電波はテレビよりも強い。それこそ受け手によっては伝播過多となる。刺激を受けすぎた結果、人生がラジオに染まっちゃった人も多い。大手S社に務める編集者Nは中高6年間、友達も作らずラジオに捧げたという。
深夜、パーソナリティーの声は人生を狂わす魔笛。リスナーはハーメルンの笛吹き男に付いてく子供達のごとく、パーソナリティーを追う。これだけでも怖いが、番組が終わっても魔力は消えない。終了したラジオ番組も何度も聞き返すなんてリスナーにとって普通のことだ。
なかでも『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)から発した電波は強かった。この番組と出会ったがために、くりぃむしちゅーが特別な芸人となった人は数しれず。ちなみに僕もその1人。
好きな人が好きなモノが好き。だから、くりぃむしちゅーが好きなモノを好きになる。2人は森羅万象、様々な事象について対話した。そのなかでもとりわけ熱心に語られたのがプロレスについて。
熊本県立済々黌高等学校で出会った有田哲平と上田晋也、最初に交わした会話は「アントニオ猪木と前田日明どっちが強いと思う?」だったそうな。プロレスを介して、親交を深めた2人が語る昭和プロレス与太話は最高だった。
タイガーマスクの生涯のライバルは誰か、ビッグバン・ベイダーの乱入によっておざなりとなったアントニオ猪木VS長州力、幼少時代の有田が見た悪役プロレスラーの優しい素顔、期待外れな演出を続ける新日本プロレスの異常性。
プロレスラーの全盛期は短い、同じくパーソナリティーとリスナーの蜜月の期間も長くはない。プロレスラーが引退するように番組もいつかは終わる。
2008年に『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン』は幕引き。そのことによって、2人のプロレストークを聴く機会も失われた。しかし、番組が終わっても消えないのはくりぃむしちゅーが教えてくれたプロレスの楽しみ方。2人の影響で僕の趣味にプロレス本を読むことが加わった。
プロレス社会は“一般”とは程遠いところにある。そこに属するプロレスラーのキャラは当然特濃。
「朝目覚めてから夜眠るまで、素手でいかに効率良く人を殺せるかを考え続けている」と言われる日本のプロレスの神様、カール・ゴッチ。プロレスで稼いだ金を新規ビジネスに使い、そして1円たりとも利益を出さないアントニオ猪木。高田延彦のために1人、ヒクソン・グレイシーの道場に殴り込みに行った安生洋二。プロレスラー同士がケンカをした結果、1つの旅館を破壊したなんて信じられないエピソードもある。
昭和という大らかな時代に暴れまくった猛者のエピソードはド派手だ。ページをめくるたびに異常な生態系を知ることは面白い。しかし、そのたびに思い返すくりぃむしちゅーのプロレス漫談。「また聴きてぇ~」そんな想いもつもる。