ライフ

釈徹宗氏「立派でない人が基本的に笑う温かさが落語の魅力」

落語の魅力を語る釈さんと細川さん(撮影/杉原照夫・WEST)

 女性セブンで大好評を博した連載、細川貂々さんの落語コミックエッセイ『お多福来い来い てんてんの落語案内』が単行本化される。その発売を記念し、同書にも度々登場する釈徹宗さんと貂々さんのスペシャル対談を行った。今だから話せる連載裏話から落語と寄席の魅力まで、たっぷりとお届けします!

【プロフィール】
細川貂々/ほそかわ・てんてん。1969年生まれ。漫画家・イラストレーター。著書に『ツレがうつになりまして。』シリーズや『それでいい。自分を認めてラクになる対人関係入門』『わたしの主人公はわたし』『日帰り旅行は電車に乗って 関西編』など。

釈徹宗/しゃく・てっしゅう。1961年生まれ。宗教学者・浄土真宗本願寺派如来寺住職、相愛大学人文学部教授、特定非営利活動法人リライフ代表。著書に『お世話され上手』『落語に花咲く仏教』『70歳! 人と社会の老いの作法』(五木寛之との共著)など。

貂々:釈先生はいつ頃、落語と出会ったんですか?

釈:ぼくの子供の頃はラジオで毎日落語をやっていて、弟といつも聴いていました。一方、お寺の生まれですから、常日頃からお説教を聴いていた。だから、落語と寺のお説教のネタがかぶっているというのは子供のときから知っていたんです。もちろん、その理論は研究者になってから、わかるんですけどね。

貂々:落語にお寺やお坊さんが登場する話は多いですね。

釈:落語に出てくる言葉は、もとは仏教から出ているものが多いし、お説教の真髄は、「初めしんみり、中おかしく、終わり尊く」といって、静かに語りだし、途中で人々が退屈しないよう面白い話を入れ、最後は尊い仏の教えで終わることだといわれます。この「中おかしく」の部分が落語に発展していく。落語と仏教が似ているというのも、お坊さんのお説教の形態をそのまま引き継いでいるからなんです。貂々さんは、落語に出会って、人生変わりましたか?

貂々:変わりましたね。落語って、生きにくい人、弱い人とか、落ちこぼれている人とか、そういう人が主役になることが多いなと思ったんです。だから、私も落語の中なら主人公になれるかもしれないと思って気持ちがラクになったり、改めて自分を見つめるきっかけにもなりました。

釈:たまに立派な人が出てくる話もありますが、ほとんどは意志の弱い人、欲望に負ける人、ずるいことばかり考えている人。お坊さんもよく出てくるけど、ろくでもないのばかりでしょう(笑い)。そういう立派でない人たちが、肩を寄せ合って暮らして、基本的に笑うという温かさがあるのが落語なんです。

貂々:私は自分に自信がなくて、何もできないダメ人間だと思い込んできたんです。ネガティブ思考クイーンだったんですね。だから、落語の主人公の生きづらさと、自分の生きづらさはどう違うのかなとか、ここは一緒だとか、確認しながら、毎回描いていました。

釈:落語は噺家さんが発信するものをキャッチして、それを何倍にも増幅して楽しむという芸能なんですよ。そういう意味では、貂々さんのように人間観察が得意だとか、自己分析が得意な人こそ楽しめるんです。逆に言えば、人情の機微や人間のダメさ加減、悲しさがわからないと、なかなか楽しめない。

貂々:今の先生のお話を伺って思ったんですが、私は今、北海道で当事者研究の会というのを取材しているんです。それは、私のように生きにくさを抱えていたり、家族との人間関係に悩んでいたり、精神疾患を抱えた人たちが集まって、さまざまな苦労や葛藤を語り、仲間や支援者の経験も取り入れながら自分の助け方や理解を創造していくという研究会なんです。先生の「落語は自己分析するような人に向いている」というのを聞いて、落語とこの会はつながっていると思いました。

 当事者研究では、当事者が抱える生きづらさやさまざまな問題、苦労を当事者自身がとことん研究して、最後はみなさん、そうした問題や苦労を笑い飛ばすこともありました。

関連キーワード

関連記事

トピックス

被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバム、
「『犯罪に関わっているかもしれない』と警察から電話が…」谷内寛幸容疑者(24)が起こしていた過去の“警察沙汰トラブル”【さいたま市・15歳女子高校生刺殺事件】
NEWSポストセブン
NHKの牛田茉友アナウンサー(HPより)
千葉選挙区に続き…NHKから女性記者・アナ流出で上層部困惑 『日曜討論』牛田茉友アナが国民民主から参院選出馬の情報、“首都決戦”の隠し玉に
NEWSポストセブン
豊昇龍(撮影/JMPA)
師匠・立浪親方が語る横綱・豊昇龍「タトゥー男とどんちゃん騒ぎ」報道の真相 「相手が反社でないことは確認済み」「親しい後援者との二次会で感謝の気持ち示したのだろう」
NEWSポストセブン
フジテレビの取締役候補となった元フジ女性アナの坂野尚子(坂野尚子のXより)
《フジテレビ大株主の米ファンドが指名》取締役候補となった元フジ女性アナの“華麗なる経歴” 退社後MBA取得、国内外でネイルサロンを手がけるヤリ手経営者に
NEWSポストセブン
「日本国際賞」の授賞式に出席された天皇皇后両陛下 (2025年4月、撮影/JMPA)
《精力的なご公務が続く》皇后雅子さまが見せられた晴れやかな笑顔 お気に入りカラーのブルーのドレスで華やかに
NEWSポストセブン
2024年末、福岡県北九州市のファストフード店で中学生2人を殺傷したとして平原政徳容疑者が逮捕された(時事通信フォト)
《「心神喪失」の可能性》ファストフード中学生2人殺傷 容疑者は“野に放たれる”のか もし不起訴でも「医療観察精度の対象、入院したら18か月が標準」 弁護士が解説する“その後”
NEWSポストセブン
被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバムと住所・職業不詳の谷内寛幸容疑(右・時事通信フォト)
〈15歳・女子高生刺殺〉24歳容疑者の生い立ち「実家で大きめのボヤ騒ぎが起きて…」「亡くなった母親を見舞う姿も見ていない」一家バラバラで「孤独な少年時代」 
NEWSポストセブン
6月にブラジルを訪問する予定の佳子さま(2025年3月、東京・千代田区。撮影/JMPA) 
佳子さま、6月のブラジル訪問で異例の「メイド募集」 現地領事館が短期採用の臨時職員を募集、“佳子さまのための増員”か 
女性セブン
〈トイレがわかりにくい〉という不満が噴出されていることがわかった(読者提供)
《大阪・関西万博》「おせーよ、誰もいねーのかよ!」「『ピーピー』音が鳴っていて…」“トイレわかりにくいトラブル”を実体験した来場者が告白【トラブル写真】
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《広末涼子が釈放》「グシャグシャジープの持ち主」だった“自称マネージャー”の意向は? 「処罰は望んでいなんじゃないか」との指摘も 「骨折して重傷」の現在
NEWSポストセブン
大阪・関西万博が開幕し、来場者でにぎわう会場
《大阪・関西万博“炎上スポット”のリアル》大屋根リング、大行列、未完成パビリオン…来場者が明かした賛&否 3850円えきそばには「写真と違う」と不満も
NEWSポストセブン
真美子さんと大谷(AP/アフロ、日刊スポーツ/アフロ)
《大谷翔平が見せる妻への気遣い》妊娠中の真美子さんが「ロングスカート」「ゆったりパンツ」を封印して取り入れた“新ファッション”
NEWSポストセブン