政治家が大勝負に挑むとき、薫陶を受けた派閥領袖の墓前に手を合わせ、「決意」を誓うことは自民党の古き良き伝統だ。
だが、墓参の相手や順番を間違えると、せっかくの美徳も、「どんな御利益を願ったのやら」と打算を見すかされてしまう。
総裁選で安倍晋三・首相に「討ち死に覚悟の一騎打ち」を挑む姿勢を見せている石破茂・元幹事長は、この7月に新潟の田中角栄元首相と香川の大平正芳元首相の墓を相次いで参った。
「東京一極集中を是正し、地方に所得と雇用を作らなければならないという、角栄先生の思いを引き継いでいる」
石破氏は角栄氏の生家の前で総裁選の“抱負”をそう語り、増税を掲げて総選挙に臨んだ大平氏の銅像の前では、「不人気な政策でも国民に問う姿勢を、政治家は学ばなければいけない」と讃えた。
角栄氏が石破氏の「政治の師」の1人であるのは間違いない。田中派参院議員で自治大臣を務めた石破氏の父・二朗氏が亡くなった時、角栄氏はロッキード事件の被告人で“謹慎中”の身ながら鳥取へ飛び、葬儀委員長として盛大な「田中派葬」で送った。その際、銀行員だった息子の茂氏に衆院選出馬を勧め、躊躇すると「馬鹿者!」と叱咤激励して出馬まで田中派の「派閥秘書」として面倒を見た。それが、石破氏が「角栄の最後の弟子」を自任する理由だ。