昨秋、カナダで開催されたU-18W杯で野球日本代表のコーチを務めた大藤敏行に、現場復帰の意志を訊ねたことがあった。
「近々、発表できると思います」
帰国直後のニュースには驚かされた。全国最多11度の甲子園制覇を誇る中京大中京(以下、中京)の監督を2010年まで務めた彼が、愛知県内のライバル・享栄に転任し、2018年秋から監督になるというのだ。享栄は春が2000年、夏は1995年を最後に甲子園から遠ざかり、中京、東邦、愛工大名電との愛知私学四強の座も危うくなっていた。
とはいえ、いわば禁断の移籍だ。プロ野球でいえば巨人の元監督が阪神の指揮を執るようなもの。悩んだ末の決断だった。
「やはり、もう一度野球を教えたかった。退任後、朝日放送の野球解説で、甲子園を初めて訪れた日、グラウンドを見渡すと涙が出て来ちゃったんです。甲子園は野球をしに来るところだと痛感しました」
中京の監督に就任したのは28歳の時だった。同校の戦績が落ち込んだ時期で、愛知大会に負けた直後のOB会では厳しい批判が飛んだ。だが、2009年に堂林翔太(広島)らを擁して夏の日本一となって溜飲を下げた。監督の座を教え子に譲ってからは、中京大学野球部の監督就任の依頼もあったが、断っていた。
そして昨年5月、享栄監督の柴垣旭延(しばがき・あきのぶ)から直接、監督就任を依頼された。