「昔はエアコンがないのが当たり前」「子供は風の子、太陽の子。冷房をつけたら軟弱になる」。かつてエアコンが贅沢品だった時代、子供たちはこう言われ暑さに耐えてきた。しかし、最高気温が40℃近くになり、熱中症で病院に搬送される児童・生徒が全国で後を絶たない中、同じことが言えるだろうか──。
記録的な猛暑となっている今年の夏。その一方で公立小学校の教室(※各学級ごとに割り当てられた、通常の授業を受けるための普通教室を指す。保健室や図書室、音楽室など特殊教室は除く)の都道府県別“エアコン設置率”にはかなり隔たりがある。たとえば、99.9%の東京都、97.7%の香川県といったほぼすべての教室にエアコンが設置されている都道府県がある一方で、愛媛県は5.9%、奈良県は7.4%、静岡県は7.9%と、設置率が低い都道府県もあるのだ。
名古屋大学大学院准教授で、教育社会学が専門の内田良さんはこの状況について分析する。
「市町村単位で見れば、設置率はほぼ100%か0%のどちらかです。小中学校の教育環境は市町村が管理するため、市町村が“子供のためにエアコンが必要”と判断すれば、自治体内のすべての学校に導入するため設置率は100%になるし、逆に“いらない”となれば設置校はほぼゼロのままです」
市町村がエアコン設置をためらう最大の理由は、「財政負担」にある。
「たとえば、“〇〇小学校の3年1組の教室だけ特別扱いにしてエアコンを設置する”というわけにはいかず、すべての教室に設置する必要があるので費用がかさみます。しかも市町村内の全校に一斉に設置するには億単位の予算が必要となり、その後も毎年電気代が発生します。こうした莫大な費用が最大の障壁となっています」(内田さん)
7月23日には気温40.7℃を記録した全国有数の灼熱地帯である岐阜県多治見市では、公立の小中学校21校すべてにおいて、教室にエアコンは設置されていない。多治見市教育委員会事務局の山本知基さんも財政的な難しさを認める。
「限られた教育予算を小中学校のエアコン設置に回すことは何度も市議会で取り上げられましたが、校舎の耐震化や老朽化による改築、トイレの洋式化などが優先されました。設置費用は1台につき260万円ほど。市内21校すべてに設置するとおよそ16億円かかり、加えて電気代が年間1億円必要です。国の助成があるとはいえ微々たるものなので、財政確保はかなり厳しい」
◆早くエアコンをつけて!
エアコンがない多治見市の小中学校は、必死の努力で暑さに立ち向かっている。多治見市立養生小学校の市岡英子教頭が指摘する。