いま、マツダのカーラインアップを見ると、スポーツカー「ロードスター」をはじめ、「CX-5」「アテンザ」など、どれも洗練されたデザインで、ひと昔前とは打って変わってプレミアムブランドの仲間入りを果たした感がある。ブランド刷新の絵を描いたのは、“魂動”と呼ばれるデザインコンセプトの生みの親、前田育男氏(常務執行役員デザイン・ブランドスタイル担当)だ。インタビュー【後編】では、前田流「部下の育成法」からこれからのクルマ社会やマツダの立ち位置、極めたいクルマの姿などについて聞いた。
――クルマづくりはデザインも含めてチームプレーが大切で、部門トップの独断だけではうまくいかないこともあると思います。前田さんが部下の育成法で一番心掛けていることは何でしょうか。
前田:最も注意しているのは、のっけから部下に具体的な指示をしないようにしていることですね。最初に指示してしまうと、その指示通りの成果が返ってくるだけで、それ以上のものは絶対に出てきませんから。
また、“生煮え”に近い仕事の成果だったり、ある水準の仕事で本人が満足してしまっていた場合、ああしなさい、こうしなさいと指示はせず、「それがオマエの100点満点か?」とか「これでいっぱいいっぱいの全力か?」と、それだけしか言いません。
──もちろん個人差はありますが、いまの若い世代は言われたことは忠実にこなしても、自ら考え出していくことが苦手な人が多いのではないですか。
前田:一般的にはそう言われていますが、20代前半ぐらいの若手デザイナーでも食い下がってくる人はいますし、そういう人は伸びますね。結局、自分の能力をどう生かすかとか、自分は誰と戦っていて、何をしなければいけないかの目標が、はっきりと見えてない人が多いんじゃないでしょうか。そこが見えていれば頑張れるはずです。
部下には「絶対に僕が期待している以上の成果を持ってきてくれ」といったアプローチをしています。各々得意領域がありますから、そこは見極めたうえで、この仕事なら彼だなとか、若くてもリーダーにして責任を持たせたり、あるいはメンバーを入れ替えたりして、部下ごとに目標設定を丁寧に定めています。