【著者に訊け】吉田篤弘氏/『おやすみ、東京』/角川春樹事務所/1600円+税
東京の真夜中でこそ生まれ得た、12の物語である。実力派装丁家ユニット、クラフト・エヴィング商會としても活躍する吉田篤弘氏は、世田谷区赤堤育ち。意外にも駆け出し時代には週刊誌等のレイアウターも務め、バブルに沸く東京を遠目に眺めていたという。
「当時は若くてお金もないし、夜は編集部にカンヅメ状態でしたからね。華やかなことはどこか遠くで起き、自分はいつも隅っこにいる感覚が、僕の書く東京にはあるような気もします」
最新作『おやすみ、東京』の登場人物も、深夜専門のタクシー会社〈ブラックバード〉の運転手〈松井〉や、大手映画会社の小道具係で通称〈調達屋〉の〈ミツキ〉、〈東京03相談室〉のオペレーター〈冬木可奈子〉ら、夜の仕事人といっても様々だ。
助監督に時季外れのびわを突然所望され、ミツキが松井の車で東京中を疾走するように、本書では誰もが何かを探していた。しかも時刻はこぞって午前1時! 夜の闇はしかし何もかもを抱きとめてくれるほどに、優しく、穏やかでもあった。
「この作品自体、連作短篇集ですが、実は書くときにイメージしていたのは『連作短篇の交差点』とでもいうべきものなんです。例えばミツキが主人公の『調達屋ミツキ』や松井が主人公の『車のいろは夜空のいろ』など、本作の登場人物たちそれぞれが主役の連作集が僕の頭の中だけにあり、それが交錯するのがこの『おやすみ、東京』なんです。
そんなことを考えたのは、小説を書く過程を僕自身が楽しみたいからです。連作なら連作をただ漫然と書くのでなくどう書くか、常に考え、進化していたいので」