今から約70年前の終戦直後、道に捨てられたたばこの吸い殻を集める「モク拾い」という仕事があった。吸い殻をほぐして巻き直し、新しいタバコにして売るためだ。もちろん味は悪かったが、物不足で売れたという。そのモク拾いを彷彿とさせる新ビジネスが、若者たちの間に広がっている。店をまわって化粧品などのサンプルを大量に集め、それをフリマアプリで売っているのだ。貧困ゆえかモラルが無いのか、若者たちが「盲点をついた新ビジネスだ」と主張するサンプル転売の様子について、ライターの森鷹久氏がレポートする。
* * *
「いらっしゃいませー! どうぞご覧くださーい!」
露出の多い夏らしい格好で、耳をつんざくような大声で接客に励む、東京・原宿の雑貨店の女性店員たち。とびきりの営業スマイルで陳列棚をきれいに整えたり、客に商品の説明をしていた同店店員のアユミさん(仮名・21)の顔が突如、険しくなる。黒髪のどう見ても幼い、中学生くらいの三人組の客の元に駆け寄ると、彼女らが持っている何かを取り上げた。
学生はすでに夏休み。開放的な気分になった若い子たちがあふれる街で、この時期増えるのは”万引き”である。さらに最近では「フリマアプリ」が若い世代を中心に爆発的に流行っている。極めて簡単に個人間の売買ができてしまうため、盗品、万引き品の売買が横行しているとも指摘されている。また万引き少女が捕まったのか。アユミさんに問うと……。
「違うんです。最近、化粧品などのサンプルがゴッソリ盗られるんです。サンプルだから、基本的には誰でも好きなだけ持って行ってもらってもよい……ことになっていましたが、化粧水のサンプル三十袋が一人のお客さんによって持ち去られたりして。最近は”おひとり様一点”とサンプル品の前に札をかけていますが、守られません」(アユミさん)
無料のサンプル品だが、サンプルを置くのにも当然コストがかかる。Aという商品のサンプルを多く置くためには、商品Aを多く仕入れなければならない。サンプルだけがなくなれば、その商品が売れるきっかけは減り、仕入れにかけた金を回収できず不良在庫となる。
ケチケチするなよ、と思うかもしれないが、とある日には女子中高生の修学旅行客が来店した午前中のわずか一時間で、店内のサンプル品のすべてが、根こそぎ無くなったこともある。店にとっては死活問題だが、他方、サンプルを持ち去る若い女性はといえば、サンプルを持ち帰り、フリマアプリで販売し、小遣い稼ぎに勤しんでいるのだという。
「“メルカリ”などのフリマアプリでは、化粧水などのコスメ商品のサンプル品をいくつか集めたものが“セット”として販売されています。サンプルの寄せ集めなので、せいぜい数百円か千円くらいの販売額。でもこれが結構売れるみたいなんです。サンプルを大量に持ち去ろうとした女子中高生に話を聞くと、自分で使うため、という子は少なく大体販売目的なんですね。万引きではないし、犯罪でもないから止めることができなかったんですが、サンプルを大量に持ち帰る子があまりにも多くなり、スタッフは万引きよりも、サンプルを大量に持ち去る子を監視しているくらいです」(アユミさん)