『ツレがうつになりまして。』の著作で知られる漫画家・細川貂々(てんてん)さんが落語をテーマにしたコミックエッセイ集『お多福来い来い』(小学館刊、1296円)を刊行。発売早々話題を呼んでいる。本書の魅力とはどんなものだろうか? 大ベストセラー「バッテリー」などの著者・作家のあさのあつこさんに、聞いた──。
貂々さんの作品はこれまでも読んできましたが、その魅力は、自分を隠さないこと。しかもそれは「さあ、見て見て」というものではなく、ここまでさらけ出さないと私は描けないんです、というギリギリのところをとても感じます。読者に対して誠実で、真っ当で、変に飾り立てるところもない。
貂々さんが抱える生きづらさとそれを克服していく強靭さは、どの作品にも通底していますが、特にこの作品にはとても感じました。それは落語の持つ強さ、例えば貧乏や病、人間関係でも、どんな困難でも笑って乗り越えていけるという落語の真髄が、貂々さんの作品に繋がっているからだと思います。
この作品の中で、落語との出会いは、落語好きの釈徹宗先生と知り合って、とありましたが、私は落語と出会うべくして出会ったのではないかと思うんです。きっと釈先生と出会っていなくても、クリエーターとして、どこかで落語に触れたのではないか、と思いましたし、運よく落語が転がり込んできたのではなくて、貂々さんがずっと考えてきたこと、生きてきたことに、落語が引き寄せられたという気がしました。
私自身は落語をあまり知らなかったのですが、落語によって人がこんなに支えられたりするんだ、人の生活と結び付くんだと、とても新鮮で、目からウロコが落ちました。
『唐茄子屋政談』の回で、ツレさんは「これはボクの物語なんだよ」と話すシーンがありますが、きっと読者は「『死神』は私の物語だ」「『替わり目』は私の物語だ」と、一人一人違う演目で感じるのではないでしょうか。